研究課題
本研究では,日本の「すざく」をはじめとする歴代のX線天文衛星を凌駕する広視野を持つ宇宙X線望遠鏡搭載を目指した,大面積・超高感度X線CCD を開発することである。そのための本質的な課題は,宇宙X線観測用CCDの,可視光・紫外線の遮光対策であり,本研究では,OBFに替わる可視光・紫外線遮断フィルム(OBL)を,直接BI-CCD表面に最適の厚さでコートする技術を確立し,安全で確実なX線CCDの可視光・紫外線遮断技術を実用化する。 今年度は,OBLコートしたBI-CCDと,ポリイミドを除いたアルミ単層のOBLをコートした小型のBI-CCDを開発した。前者のBI-CCDでは,KEK-PFにおいて,斜入射実験を行い,0.2-2.0keVの帯域でX線透過率を測定した。その結果,OBLを構成するアルミの厚みが126nm,ポリイミドの厚みが110nmと設計値と同程度の厚みがコートできていることを確認することができた。さらに,アルミの一部が酸化したと考えられる酸化アルミが14nm,CCD表面の不感層の酸化シリコンが20nm程度であることも分かった。このことから,コートするOBLの厚みを制御することができることが分かった。また放射線源55FeからのX線を照射し,5.9keVのX線に対するエネルギー分解能が200eV程度であることが分かった。OBLをコートしていないCCDについても、性能を比較するための実験を行い、同程度のエネルギー分解能であることを確認した。以上のことから、OBLの厚みを評価することができること、また、OBLをコートしてもエネルギー分解能に差がないことを確認することができた。 以上の結果は,日本物理学会,日本天文学会などの国内学会や,SPIEやSuzaku Conferenceなどの国際学会で発表を行った。また,論文として報告した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では,可視光・紫外線を遮光するOBをコートしたBI-CCDを開発することを主目的としており,研究の達成度を測る上で、以下の研究項目をクリアしていることがポイントと考えている。冷却昇温の熱サイクルをかけるうちにOBLが剥離しないか,さらにOBLの厚みに斑がないかについては、既に本研究代表者の先行研究で問題ないことを確認している。 1) OBLの可視光・紫外線遮光能力の検証。 2) 設計値と同じ厚みのOBLがコート出来るか。 3) OBLをコートしたCCDのエネルギー分解能,ノイズレベルなどの性能評価。 今年度は,OBLコートしたBI-CCDを試作し,1)の遮光性能については,紫外線については,コートしたOBLで紫外線を十分遮光できることが確認した。可視光については、可視光透過率が予想値よりも2桁高い結果となり、次年度は、アルミのコーティング方法の改善が必要となっている。既に、コーティング方法を替えた新しいCCD素子を試作し、次年度は、この新しいCCD素子を用いて,可視光の遮光能力が改善しているかどうか確認を行う。2)については、KEK-PFにおいて、斜入射照射法を用いて、OBLのX線透過率を測定し、設計値通りの厚みのOBLをコート出来ているこをと確認し、厚みの制御が可能であることが分かった。3)については、55Feを用いて既にX線に対する性能評価を行っており、次年度は、より低いエネルギー帯域のX線を照射し、エネルギー分解能などの性能評価を行う予定である。 以上のことから、可視光の遮光という点では次年度の課題があるものの、その他の点では大きな課題はない。また研究成果も、国内外の学会で発表を行い、論文での発表も随時進めていることからも、総じて、本研究は順調に遂行できていると考えている。
先の【現在までの達成度】にも記載したように、OBLの可視光遮光性能に課題があるため、次年度は,アルミニウムの可視光透過率の検証を軸に研究を進めていく。 具体的には、新たに試作したアルミニウム単層のOBLをコートしたBI-CCDを用いて,アルミニウムのコート技術の確立を行う。試作したアルミニウム単層のOBLは,従来のコート方法とは別のコート方法でコーティングを行ったもので、その可視光透過率を測定し、アルミニウムの厚みから予想する可視光透過率を得られるか検証する。さらに従来品と可視光透過率の比較も行う。 また、アルミニウム単層のOBLについても、X線透過率の測定を実施し、さらに2keV以下の低いエネルギー帯域のX線を照射し、エネルギー分解能などの性能の評価も行い、従来のX線CCDとの性能の違いを評価する。また、研究室内で構築したX線発生装置を用いて,検出効率が分かっている比例計数管のようなX線検出器と,OBLをコートしたBI-CCDとに交互にX線を照射し、OBLをコートしたBI-CCDの検出測定の測定を行う。この測定は、斜入射照射法の測定結果の検証を目的とした実験である。 以上のこと実施し、本年度中には、大面積X線CCDの可視光・紫外線の遮光技術を確立する。
比例計数管を用いて、OBLをコートしたBI-CCDの検出効率を求めるには、X線発生装置のビームの安定性が問題になる。そこで今年度は、X線発生装置からのX線のビーム強度をモニターするためのX線検出器を購入する予定である。
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