研究概要 |
今年度は研究期間の最終年度に相当するため、今年度の研究計画を継続しつつ、研究課題に関連する新しいテーマにも取り組んだ。特に近年盛んに研究がなされているリフシッツ時空を用いて、並進対称性を自発的に破る機構を研究した。リフシッツ時空は、漸近的AdS時空であるが、ホライズン近傍で時間方向と空間方向のスケーリングに非対称性があるため、AdS/CFT双対性を用いて強相関量子多体系を記述するのに有用な時空と考えられている。これまでの研究では、時間方向と空間方向のスケーリングに対称性があるRN-AdS時空で、この自発的対称性の破れの機構が、アクシオン場を用いて主に調べられてきた。この機構をリフシッツ時空に応用し、並進対称性を破る自発的対称性の破れがどの様にリフシッツ時空で起こるのか、プローブ近似の下で調べた。その結果、リフシッツ時空を特徴付けるパラメーターの値によっては、低温において、対称性の高いRN-AdS時空よりもより並進対称性を破る不安定性が増大することがわかった。この結果は、Physical Review Dという雑誌に学術論文(PRD87,(2013)126006)として掲載された。この研究は、異方性を持つより広いクラスの強相関量子多体系の自発的対称性の破れを研究する上で、一つの重要な結果と考えられる。一方で、研究計画に記載してあるように、格子構造を持つ時空上で、初期電流(直流電流)が、どの様にウムクラップ散乱によって散逸を起こすのか調べた。超流動状態における永久電流の有無を調べるのが最終目標であるが、まずは最初のステップとして、常流動状態における電流の散逸を詳細に調べた。その結果、線形応答理論の予想を大きく覆し、ゼロ温度でも抵抗がゼロにならないという興味深い結果を得た。この結果は学術論文(PRD88,(2013)066009)として掲載された。
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