本年度は引き続き「rモード不安定性の非線形動力学的性質の解明」に向けて,特に不安定性の非線形領域における航空工学的な近似と摂動論による成長時間の比較,相対論的重力におけるrモード不安定性の非線形動力学への拡張に主眼を置いた研究を実施した.
まず,動的な時間スケールを超えた動力学を行うためには,短い時間スケールの変化を無視することによって現実的な数値シミュレーションの計算時間で到達可能になる.本研究では短い時間スケールの変動を無視する航空工学的な近似,低マッハ数近似を検討し,まず航空工学的な近似を施した相対論的重力における基礎方程式の導出,およびその数値スキームの構築に着手し,成功を収めた.これは平成23年度のニュートン重力における研究成果を自然に相対論的重力に拡張するものである.
次にrモード不安定性の非線形動力学的性質の解明に向けて,流束四重極モーメントによって構成される重力波放射の輻射反作用力を加えたニュートン重力場中の流体動力学のシミュレーションを回転座標系で実施した.航空工学的な近似の有無により,rモード不安定性の成長時間の違いが飽和振幅に到達する前に徐々に顕著になる傾向を得た.航空工学的な近似を施したがために不安定性の成長時間が必ずしも再現されないという見方もあるが,星の表面付近の流体素片の取り扱いを変化させると成長時間に若干の違いが表れることが分かった.それゆえ,星の表面付近の流体素片の取り扱いを精密化させて,一連の研究を完成させることが今後の課題である.
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