本研究課題の目的は、加速器実験における長寿命荷電粒子の検証、並びに、長寿命荷電粒子を窓口としたその背後の物理の解明である。長寿命荷電粒子は、その長寿命をもたらす機構に応じ、加速器実験における生成後の振舞い、及び、他の場面における影響の質・度合が大きく異なる。本課題では、長寿命荷電粒子が原子核にもたらす特殊な核反応をプローブとして上述の目的にアプローチする。 初年度における研究では、長寿命荷電粒子と原子核が束縛状態を形成した際に起こす反応を提唱し、その反応率を算出した。この研究成果は、本研究課題の目的の一つである「長寿命荷電粒子探索に有効な検出器の選出」を定量的に考察する際に不可欠となる。さらに、初年度の研究において、長寿命荷電粒子が初期宇宙元素合成に及ぼす影響を探り、軽元素の観測量に不整合が生じぬよう長寿命荷電粒子の性質に厳しく制限を与えた。 超対称性模型におけるスタウという粒子は長寿命荷電粒子の有力候補である。超対称性模型において予言されるヒッグス粒子質量は、長寿命スタウの性質や暗黒物質の残存量計算に強くつながりを持つ。翌年度の研究では、この特徴を活かし、ヒッグス粒子質量の測定値や暗黒物質の残存量計算等から、長寿命スタウの性質、並びに、模型構造を高精度に切り出した。こうした結果は、本研究課題が目的とする「長寿命荷電粒子を切り口とした新物理の解明」に活かされる価値ある成果である。 また、同年度、加速器実験における長寿命荷電粒子と原子核の束縛状態形成の効率化について研究を行なった。ミューオニック原子形成の物理を基に、長寿命荷電粒子の収集率増大、束縛状態形成に適した原子核の選出を内容としている。本研究は近々講演、及び、論文の形で発表予定である。
|