研究課題/領域番号 |
23740210
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
杉山 弘晃 立命館大学, 総合理工学研究機構, ポストドクトラルフェロー (50548724)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ニュートリノ / ニュートリノ質量 / レプトンフレーバー / ヒッグス粒子 / 素粒子論 |
研究概要 |
ヒッグス3重項模型はニュートリノ質量生成機構を与える単純な模型の一つである。この模型の特徴的な新粒子である2重荷電ヒッグスは、もし生成されれば観測が容易であり、LHCにおいても精力的に探索が行なわれている。通常、その生成過程はゲージボゾンからの対生成であるが、我々は1重荷電ヒッグスの崩壊による生成過程の重要性を指摘した。 また、ヒッグス3重項模型には新たな中性ヒッグスも存在する。この中性ヒッグスはニュートリノ対に崩壊することが考えられるため、その存在や観測方法はほとんど注意が払われていなかった。我々は、中性ヒッグスが1重荷電ヒッグス、2重荷電ヒッグスへと段階的に崩壊していく過程の重要性を指摘した。この過程では多くの荷電レプトンが終状態に含まれ、背景事象に邪魔されずに中性ヒッグスの存在を探索できる。 他方、ニュートリノはマヨラナ粒子と扱われる(期待される)ことが多いが、レプトン数保存を破る過程は実験的に確認されてはいない。そこで、レプトン数保存を破らないディラック粒子である可能性を追求した。ニュートリノ質量が他のフェルミオン(ディラック粒子)の質量と大きく異なっている理由を与えるために、ニュートリノのディラック質量がループダイアグラムによって生成される模型を解析した。我々は、そのような模型が現在の実験の制限を満たすことを示し、LHCで期待されるシグナルについて議論した。 また、その機構を活用した拡張模型として、U(1)_{B-L}ゲージ対称性の破れがニュートリノ質量、暗黒物質質量、暗黒物質安定性の共通起源となっている模型を提案した。この模型では非常に重い粒子を必要としないため、実験による検証が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニュートリノ質量を与える既存の模型(ヒッグス3重項模型)に対して、LHCにおける模型の探査に重要な寄与を与える反応過程をいくつか提案することができた。これはニュートリノ質量生成機構解明の一助となるはずである。 また、ニュートリノがディラック粒子であるという、通常とは異なる観点に基づいた模型を扱い、これがレプトンフレーバー混合パターンを満たしうることを示した。あまり注意を払われてこなかったタイプの模型であるが、レプトン数非保存過程が見つかっていない以上、むしろこちらが重要とも言えるだろう。LHCにおけるシグナルの議論も行い、成否判定の可能性を示すこともできた。 以上のように、ニュートリノ質量生成機構についてさまざまな角度からアプローチし、将来実験における検証可能性の提示も含めて成果を挙げることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後もニュートリノ質量生成機構を与える新物理模型に関して、現在のニュートリノ振動実験等からの制限を考慮し、将来実験による検証可能性を追求していく。特に、ヒッグス3重項模型のさらなる研究や、輻射型の質量生成機構を活用した新物理模型の提案を行なう。可能であれば、暗黒物質の候補が含まれるようなものにしていきたい。 レプトンセクターの混合角 theta_13 がゼロではないことが実験的に明らかになってきているが、依然としてtri-bimaximal 混合が良い近似であることに変わりはない。しかし、A4対称性等を導入してフレーバー混合を説明する場合、素朴な予言(tri-bimaximal混合等)からの補正の見積もりも必要になってくるかもしれない。小さな theta_13 を対称性で直接(主要項として)導出するようなものは、基本的には単なるチューニングと思われ、そのような方針は採用しない。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の3割の決定が流動的であったことや、民間助成を獲得していたことにより、一部の研究費を次年度の活動充実に回すことが可能になった。使用計画としては、研究成果を国際的に広めるために、京都で開催される国際会議 Neutrino2012への参加を予定している。この会議はニュートリノの国際会議では最大のものであり、ニュートリノ物理に関する現状の情報収集としても非常に重要な会議である。また、イタリアの国際会議 BeNe2012や台湾で開催される Summer Institute への参加も予定している。Summer Institute への参加の前後に、台湾の共同研究者との議論のためにしばらく台湾に滞在することも考えている。無論、国内研究会や日本物理学会会合にも積極的に参加をしていく。その他には、研究打合せのための旅費、参考書や消耗品の購入などに使用する。
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