平成26年度には、超弦理論の摂動論に依らない定式化であるIKKT行列模型における、時空の生成の仕組みについて以下の2つの成果が得られた。一つはウィック回転したユークリッド型のIKKT行列模型の回転対称性の破れである。この場合はフェルミオンを積分して得られるパフィアンが複素数であることから、数値シミュレーションを行う上でいわゆる「符号問題」に直面する。ユークリッド型のIKKT行列模型はSO(10)の回転対称性を持つが、SO(10)からSO(d)への破れは、d次元時空の生成に対応する。この対称性の破れにはパフィアンの複素数の位相部分が本質的な役割を果たすことが知られている。このような系の数値シミュレーションを行うために、パフィアンの位相部分と相関のある物理量に拘束を課す「因子化法」を適用した。これまでの簡単化した行列模型の研究を通して数値計算の方法論を確立し、平成26年度にはIKKT行列模型自体の数値計算を実行に移すことが出来た。
もう一つはウィック回転をしないローレンツ型のIKKT模型の数値計算である。これまでのKim・西村・土屋の研究で9次元の空間方向のうち3次元がある時刻を境に膨張することが知られている。ローレンツ型のIKKT模型の数値計算を行うためには正則化を行う必要があるが、平成26年度には赤外カットオフが空間方向の膨張に及ぼす効果についてSchwinger-Dyson方程式を用いて精査を行い、時空の生成の仕組みについて理解が深まった。
これ等2つの研究成果について、何れも2015年3月の日本物理学会等で発表を行った。
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