本研究ではN=126閉殻の安定性による原子核の新たな存在領域を検証するため、219Np(Z=93)や220Pu(Z=94)といった新同位体の合成実験を行う。 最終年度においては、新同位体220Puの娘核で、自身も新同位体である216U(Z=92)の合成実験を理研の所有する線形加速器施設(RILAC)およびガス充填型反跳分離器(GARIS)を用いて行った。この実験は、バリウムの安定同位体136Ba、137Ba、138Ba(それぞれ炭酸バリウム)をマグネトロンスパッタ法を用いて標的を作製し、前年度までに用いた82Kr+138Ba反応に加え、異なる反応系である82Kr+136Ba反応、および、82Kr+137Ba反応を用いた実験を行った。その結果、新同位体215Uおよび新同位体216Uからのアルファ崩壊連鎖と思われる事象を観測した。観測した反応系は、82Kr+136Ba→215U+3n、82Kr+137Ba→216U+3nであった。これらの新同位体はウラン元素における最も中性子欠損した同位体であり、世界初の観測である。 研究期間内においては、219Npや220Puの合成実験を行うに至らなかったが、新同位体である215Uおよび216Uの観測により得られた崩壊エネルギーや寿命などのアルファ崩壊特性や融合反応における生成断面積のデータを得ることが出来た。これらは今後、219Npや220Puの合成実験を行うにあたり、生成断面積やアルファ崩壊特性を予測するための非常に重要なデータである。特に216Uにおいては、220Puの娘核であり、220Puが合成出来た際の確実な証拠となる。
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