研究課題
中性子魔法数20を持つ中性子過剰核32Mgでは、魔法数がなくなり、従来の原子核構造の常識が覆されていることが知られている。この現象を説明する様々な模型が提案されているが、この領域の安定核も統一的に説明する模型として、大きなテンソル力による中性子単一粒子軌道の変容が上げられる。いずれの模型にせよ、この現象の理解のためには中性子数21を持つ32Mg近傍核の中性子単一粒子状態を調べることが重要である。しかし、中性子単一粒子状態を調べる最も典型的な手法である1中性子移行反応は、逆運動学になるためエネルギー分解能が足らず、この領域の単一粒子状態の研究は手付かずのままであった。本研究では新しい手法を用いて、初めてこの領域の単一粒子状態を系統的に測定し、32Mg近傍の異常構造の原因解明を目指す。実験は、核力が陽子と中性子を区別しないという特色を用いる。このため、ある中性子単一粒子状態と同じ状態が陽子単一粒子状態として現れる。この陽子単一粒子状態は、核子当り数MeVという低エネルギー短寿命核ビームでの共鳴弾性散乱を測定すれば得られる。平成22年度終わりに理化学研究所で行った34Siの陽子共鳴弾性散乱の解析を行い、中性子数が21個の同位体の一つである35Siでの束縛単一粒子状態を明らかにした。今までベータ崩壊でしか知られていなかった35Siの束縛励起状態の他に、新たに2つの励起状態を発見した。また基底状態を含む全ての励起状態の分光学的因子を決定することができた。この実験結果について投稿論文としてまとめて発表した。現在、この理論的解釈を進めている。平行して32Mgにより近い31Mgの単一粒子状態測定実験をCERNのISOLDE施設に提案し、認められた。平成24年度夏に実験が割り振られ、現地での共同実験者と共に準備を行っている。
2: おおむね順調に進展している
中性子21を持つ短寿命核35Siの単一粒子状態の研究を通して、低エネルギー中性子過剰核ビームの生成方法と、その実験手法が確立できた。同様の実験は基本的にビームを変えるだけで可能なので、効率よく系統的な研究が可能になった。また、実験結果から、その単一粒子状態の情報を引き出すには、R行列解析が必要になる。本実験を通して、理論計算を実験値にフィットさせるためのプログラムなどの基本的な解析ソフトウェアを整備した。同種の実験をした場合に、最終的な論文発表までの時間が短縮されると期待される。32Mg近傍核31Mgの単一粒子状態の実験がCERNのISOLDE N-TOF Steering Committeeで認められ、平成24年度中に実験ができる見込みであることは、本研究計画を計画通り行う上で必須であったので一つの成果と考えられる。研究計画に従うと33Mgの実験も提案するべきであったが、現在ISOLDEの線形加速器のRF増幅器の一部が故障し、目的のエネルギーが出ないことが分かったので断念した。ただし、来年度から建設が開始されるHiE-ISOLDEができると核子当たり数MeVのエネルギーが得られ、実験が可能になるので、ISOLDEが33Mg実験を行う上で最適地であることに変わりはない。31Mg実験をCERN/ISOLDEで行うことは次回以降の実験につながる。35Si, 31Mgの2つの中性子単一粒子状態が明らかになれば、この領域での異常構造の原因解明により近づくことができると考えられる。
平成24年度夏に予定されている30Mgの陽子共鳴弾性散乱実験に向けて準備を行う。この実験を通して、32Mgの隣の31Mgの中性子単一粒子状態が明らかに出来る。既に検出器は手元にあり、アルファ線を用いたテストを4-5月中に行う予定である。実験終了後直ちに解析を始め、平成24年度中に論文としてまとめて投稿する予定。上述した様に、解析手法やソフトウェアは既に整備してあるので結果までの時間は35Siの実験に比べて短縮でき、この時間配分は現実的と考えられる。将来行う本研究手法の改善策として、固体水素標的を用いることが考えられる。まだ一様性などクリアするべき問題はあるが開発を始めるために、ターボ分子ポンプや標的チェンバーなど必要な機材を用意しておく。
CERNのisolde施設で平成24年8月に行う30Mgの陽子共鳴弾性散乱実験前後約10日間、研究協力者を2名日本から派遣する費用として50万円を計上した。また、将来の固体水素標的製作のための必要な機材として小型ターボポンプ50Lを購入予定である。論文の投稿料、別刷り代として用いる予定だった昨年度予算の残額310,150円を今年度に繰り越して同じ目的に用いる予定。その他、真空消耗品購入費、実験で使用する特殊集合ケーブルの制作費として29万円計上した。
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Physical Review C
巻: 85 ページ: 034313 (5pages)
10.1103/PhysRevC.85.034313
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10.1140/epja/i2011-11138-8
http://kekrnb.kek.jp/