研究課題/領域番号 |
23740219
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
吉田 誠 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (70379303)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 超伝導磁石 / 耐放射線 / アルミ安定化超伝導線 / ミューオン |
研究概要 |
超伝導磁石材料の放射線耐性を調べるため、京都大学原子炉実験所にて中性子照射実験を行った。COMET実験(J-PARC E21)のパイオン捕獲ソレノイド用に試作された超伝導線からアルミ安定化材(イットリウム添加)を切り出し、およそ12Kの極低温環境下で中性子を照射しながら電気抵抗を測定した。加えて、5Nグレード純アルミ(RRR=3000)、および超伝導線に使われる無酸素銅(RRR=300)のサンプルについても試験した。アルミ安定化材については、平成22年度に照射試験したアルミ試料(Cu,Mg添加)と同様の結果が得られ、10の20乗neutrons/m2の速中性子束に換算して抵抗率がおよそ0.024-0.027nOhm-m増えることがわかった。5N純アルミは10の20乗n/m2あたり0.025nOhm-m抵抗率が上昇し、無酸素銅の抵抗率は10の20乗n/m2あたり0.009nOhm-m上昇した。これらの結果より、中性子照射によるアルミの抵抗率増加は、添加剤や加工歪みの有無にほとんど依存しないことや、銅に比べて3倍ほど敏感である事が分かった。また、平成22年度に行った中性子照射試験中にはセルノックス抵抗温度計の読み値が12Kから15Kまでドリフトすることが観測されたので、平成23年度の試験では、金鉄熱電対を併設して、温度測定の信頼性を確かめた。照射試料から70cmはなれた場所につけたセルノックス温度計と試料付近の金鉄熱電対は照射中ほぼ一定の温度を示したことから、試料近傍のセルノックスも放射線により劣化することが分かった。超伝導磁石の運転温度である5K付近の温度領域では劣化によるドリフトは影響が小さくなると期待されるが、今後の磁石設計で留意する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
貴重な原子炉照射の機会を生かすため、低温設備の中に同時に複数の試料を挿入し多数の信号線を取り出すための真空フィードスルーを製作した。また、やわらかい試料を保持するための試料ホルダーを作成し、純アルミ試料の照射データを取得した。アルミ安定化材について中性子照射試験を実施し、低温環境下で放射線損傷による抵抗上昇を確認した。純アルミに関するデータから、加工歪みの存在するアルミ安定化材でもひずみの無い純アルミと同程度の劣化を生じることを確認した。パイオン捕獲ソレノイドに使われる伝熱用純アルミの厚さを従来の4倍に増すなど、磁石設計にフィードバックした。温度センサーにおける照射効果についても、セルノックス抵抗温度計に加えて金鉄熱電対を併設して調査した。金鉄熱電対による測定では中性子照射中の試料付近の温度は安定しており、10K程度の温度領域ではセルノックス抵抗温度計の放射線損傷による読み値ドリフトは無視できないものである事が分かった。米国FNALでのワークショップでこれらのデータの解析結果を報告し、超伝導磁石の加速器応用において放射線損傷の対策が重要であることをアピールした。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に取得したデータを精査し、低温での中性子照射による劣化、回復の繰り返しについて磁石の寿命を推定する。必要に応じて劣化、回復の繰り返しについて追加のデータを取得し、さらに成分の異なるアルミ安定化材についても試料を用意して、中性子被曝耐性を調べる。これら試料の予備測定を行うため、テストベンチの精度、利便性を向上するためにテストベンチの温度計やヒータなど制御系を整備する。これら高強度アルミの放射線特性を把握した上で、パイオン捕獲ソレノイド磁石の詳細設計を行う。ここまでの結果では、中性子照射による伝導率の劣化はクエンチ保護上無視できないレベルであるので、アニールのための実験中断を少なくできるよう、パイオン捕獲ソレノイド磁石を一定期間で昇温し、劣化を回復できるように考慮した冷却系を設計する。J-PARCや米国フェルミ研究所の大強度陽子ビームによる高放射線環境化でパイオン捕獲ソレノイド磁石が耐えられるよう、メンテナンス方法も含めてフェルミ研の研究者らと情報交換しつつ、パイオン捕獲ソレノイド磁石の詳細設計を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
原子炉中性子を照射する試料を固定するためのアルミナ製試料ホルダーを平成23年度に製作し、23年9月の照射試験に使用したところ、不純物の計算値以上の残留放射能が残る事が分かったため、23年11月の照射試験用試料ホルダーは製作しなかった。そのため、当初予定していた6N純アルミ用の試料ホルダー製作は延期し、次年度に改良することにした。また23年度の試験では、耐放射線性電線は残余品でまかなえたため、電線の製作は行わなかったが、24年度には必要量が確保できないためあらたに製作する。平成24年度は原子炉照射試験に必要な真空フィードスルー、温度計等を購入するのに加え、予備測定のためのテストベンチ用ヒータ等を購入する。また、耐放射線性超伝導磁石の設計に必要なソフトウェアを調達する。照射試験解析結果や、磁石設計検討を公表するため、国際会議等へ参加するために旅費を使用する。
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