研究課題/領域番号 |
23740220
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
樋口 岳雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (40353370)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 放射線耐性 / 磁場耐性 / データ通信エレクトロニクス |
研究概要 |
平成23年度は、データ通信エレクトロニクスの構成部品のうち、とくに放射線に弱いと考えられるFPGA・光トランシーバー・定電圧発生器に放射線を照射し、その耐性を調べる実験を行った。複数回にわたる実験の結果、各部品についてのγ線耐性が徐々に明らかとなった。たとえば典型的な高エネルギー実験であるBelle II実験の場合、γ線の年間被曝量は最大で100Gyと予測される。これに対し、Xilinx社製のVirtex-5 FPGAは1000Gy以上の放射線耐性を示し、10年分を耐えることが示せた。また定電圧発生器も、通常想定される部品では10年分以上を耐えることが判明した。10年は、ひとつの高エネルギー実験のまる1回にだいたい相当するので、10年分の耐性があれば十分である。他方、光トランシーバーにはγ線耐性に問題があることも判明した。4Gbpsの通信速度性能をもった製品の場合、製造業者によらずおおむね300Gy程度で破壊されてしまうこともわかった。ここまでの結果を国際会議TWEPP2011で発表し、査読論文にして公表した。光トランシーバーの放射線耐性が低い問題については、別の通信速度性能を持った光トランシーバーにもγ線を照射して、耐性の高い製品を探す実験を試みた。その結果、AVAGO社製の8.5Gbpsのトランシーバーがぎりぎり1000Gyに耐える可能性のあることが判明した(2Gbpsや3Gbpsなど他の通信速度性能をもったものも実験したが、そこまで耐性はないことがわかった)。以上のほか、定電圧発生器については磁場中での動作性能が心配されるため、KEKが所有する1.6Tの電磁石内での性能評価も行った。1.6TはBelle II実験の周辺漏れ磁場よりも強い磁場である。実験の結果、この程度の磁場中では定電圧発生器は問題なく動作することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ通信エレクトロニクスを構成する部品の耐放射線・耐磁場性能の評価については計画よりも早く進んでおり、高い耐放射線・耐磁場性能をもったエレクトロニクスの開発のための基礎情報の収集は順調である。他方、データ収集エレクトロニクス自体の開発はやや遅れており、独自のエレクトロニクスを設計するに至らなかった。したがって、放射線等の影響下でもエラーに対して耐性を持った通信プロトコルの実装等に着手できなかった。ただし、この点については、本研究専用のものではないが、KEKが業務研究として開発したエレクトロニクスを平成23年度のうちに入手し、準備を進めた。以上から総合的に判断して、おおむね順調な進捗と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
耐放射線・耐磁場性能をもったデータ通信エレクトロニクスの開発のための部品に関する基礎情報はほとんど収集できたといえる。そこで、平成24年度以降は、そうした性能を持ったデータ通信エレクトロニクス自体の開発に移行する。開発項目には、おもにエレクトロニクスとしてのハードウェア、エラーに強い通信プロトコル(とそれを含む不ファームウェア)、ハードウェアとインターフェイスをするためのソフトウェアの開発があげられる。ただし、本来であればハードウェア開発が完了してからそのハードウェア専用のファームウェアの開発をするべきだが、ハードウェアの完成をただ待っていると研究計画の遂行に時間的無駄が生じるので、ファームウェア開発等もハードウェア開発と並行して、あるいは先行して実施し、時間に無駄がないように進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、平成23年度の研究からγ線耐性の高い光トランシーバーが存在することが明らかになった。これについて、東京工業大学のコバルトγ線照射施設にて追試実験を行う(国内旅費)。また耐中性子線性能を評価する実験を神戸大学のタンデム静電加速器で行う(国内旅費)。なお、当該光トランシーバーの放射線耐性が製品のロットに依存する可能性を考慮し、時期をおいて当該光トランシーバーを少量購入ずつする(消耗品費)。昨年度のTWEPP2011からここまでの研究成果を国際会議IEEE Real Time 2012で発表する(外国旅費・その他(会議費))。なお次年度使用額について、実験用PC購入中止(所属機関にあるものを利用可能であることが判明)と東アジアでの研究打ち合わせを長期繰り延べをした一方で、電子部品のγ線耐性実験を当初の予定よりも多数にわたり集中的に実施したため、その分の旅費と効率的な実験遂行に必要な機材(軽量型電源装置)の購入を行ったため、その差し引きによって記載した額に相当する次年度使用額が発生した。発生した次年度使用額は、翌年度請求額と合計して、翌年度の研究計画の中核部分のひとつとなった中性子耐性実験用の光トランシーバーの購入に充てる。
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