研究課題/領域番号 |
23740222
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
佐藤 政則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (90353367)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 加速器 / 線形加速器 / ビーム制御 / ビーム運転 / アラームシステム / フィードバック |
研究概要 |
加速器ビーム運転に関するソフトウェア技術は,計算機科学の進歩にともない大幅な進歩を遂げたと言えるが,近年のビーム運転システムは,ILCに代表される超大型加速器の運転にそのまま適用できるレベルとは言い難い。大規模加速器では,その制御対象点数の多さから,単純な機器故障に起因しない場合のビーム変動の抑制が困難である。これらの理由から,次世代加速器の運転効率を最大限に高めるためには,従来の水準を超える新しいビーム運転システムが不可欠である。このため,本研究では,「革新的アラームシステム」・「高機能フィードバック」・「超高速ビームシュミレーター」のソフトウェア群から構成される,"先進的ビーム運転システム"の開発を目指している。 平成23年度は,「革新的アラームシステム」の開発を中心におこなってきた。通常のアラームシステムでは,パラメーター毎の閾値を設定し,現在の測定値がそれらの範囲から外れた場合に,視覚的あるいは音声的にビーム運転者へ注意を喚起する目的で使用されている。本研究で開発を目指している革新的アラームシステムは,膨大な運転パラメーター間の相関解析演算処理を高速におこない,アラームひいてはビームフィードバックに用いるための,大規模パラメーターに対応した高速データマイニングシステムである。 本研究のためには,オンラインビームシミュレーション用高速計算機サーバが不可欠である。平成23年度後半に,当該計算機の導入,ソフトウェア開発環境,およびビーム運転環境の整備をおこなった。具体的には,加速器ビーム制御システムの標準フレームワークであるEPICS環境を当該計算機上に構築し,高エネルギー加速器研究機構電子陽電子入射器におけるビーム運転パラメーターのデータロギング試験をおこなった。これと並行して,高度なビーム運転を実現するための運転パラメーター解析システムの開発に取り組んできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は,「革新的アラームシステム」の開発研究結果に基づき,ソフトウェアの基礎的部分の開発をおこない,実ビーム運転パラメーターを用いた試験を積み重ねることによって,開発を目指す予定であった。開発研究の基盤となるオンラインビームシミュレーション用高速計算機サーバの選定が遅れ,実機の導入が当該年度後半にずれ込んでしまった。このため,後に控える基本的な環境構築および試験がずれ込んでしまった次第である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,「超高速ビームシミュレーターによる高効率ビーム制御技術の確立」,「超高速ビーム位置モニターによる高速同期ビーム診断」に関する研究を進める。具体的には,高速演算可能な空間電荷効果計算アルゴリズムおよび高効率軌道補正アルゴリズムの開発をおこなう。これらを基盤とした計算コードを実装し,高速ビームモニターデータ収集系と連携する。これにより,ビーム位置などの主要パラメーターを非破壊計測し,高速ビームシミュレーターを構築する。本リアルタイムモデルを基にして,主要なビームパラメーターの高速補正を目指したシステム開発を目指す。次世代の大規模加速器においては,高品質なビーム診断およびルミノシティー最適化のための高速なパラメーター微調整機構が不可欠であり,高速ビーム診断システムの運用が重要となる。研究代表者は,高エネルギー加速器研究機構電子陽電子入射器に設置されている約100台のビーム位置モニターのために,高速データ収集システムの開発の経験を有する。本システムをさらに発展させ,高精度なイベントタイミングシステムと連携させることにより,パルス毎の完全同期ビーム位置情報システムを構築する。本システムによる測定結果と上述のビームシミュレーターを組み合わせることにより,ビームオプティクスなどのパラメーターエラー解析をおこなう。本システムを用いて,次世代の大規模線形加速器を想定した高速同期ビーム診断システムの試験を実施する。前年度開発予定であったアラームシステムの開発を急ぐとともに,上述のソフトウェア郡をシームレスに連携させることにより,"先進的ビーム運転システム"の構築を目指す。本運転システムを用いて,高エネルギー加速器研究機構電子陽電子入射器におけるビーム試験をおこない,システム全体の性能評価およびさらなる改善を進める。また,本研究全体のまとめをおこない,今後の課題等について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の特色は,大容量運転パラメーターの高速データ解析システムを利用したビーム運転システムの高度化である。したがって,従来よりもさらに大容量なビーム運転パラメーターを用いた解析試験が必要となる。このため,次年度研究費の一部は,高速なファイルサーバーシステムの導入に充当する予定である。また,次年度は,本研究の最終年度であるため,開発研究のまとめを,関連した国際会議において発表する予定である。残りの研究費は,このための海外出張旅費として使用する予定である。
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