研究課題
複数のスキルム型エネルギー密度汎関数を用い、希土類元素に対するアイソスカラー型並びにアイソベクトル型の多極子応答を系統的に調べた。遷移強度の大部分を担う巨大共鳴状態は、多数の核子が関与する集団運動の典型的なモードであり、その性質は強い集団性を反映して核物質の性質と大きく関係している。異なる核物質の状態方程式を与える複数のエネルギー密度汎関数を用いることで、実験的に観測可能な有限原子核の励起状態の性質と無限系の核物質とを理論的に橋渡しすることが可能となる。また、天然に安定に存在する希土類元素は、中性子数を変化させると、その基底状態の形が球形から軸対称変形へと連続的に変化することから、原子核の形状と励起モードの関係を調べるのに適している。系統的計算の結果から、変形によって異なる多極子型の共鳴状態が干渉し特徴的なピーク構造を持つこと、また磁気量子数によってピーク構造が分離することなどが明らかになった。これは、広い質量数領域にある原子核の巨大共鳴状態を統一的に理解する上で重要な知見である。また、複数のスキルム型エネルギー密度汎関数を用いることで、実験で得られた巨大共鳴状態の性質から、核物質の性質に制限を加えることができるを示した。これらを原著論文として発表した。今年度はさらに、スピン・アイソスピン応答を記述できる理論モデルの構築を行った。原子核の変形や、核子の弱束縛性・超流動性を自己無撞着に取り扱うことの出来る理論枠組みであり、これにより任意の粒子数をもつ原子核に対する荷電交換型の巨大共鳴状態の記述が世界に先駆けて可能になる。理論手法とそのベータ崩壊への適用に関して、原著論文として発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
様々な種類の巨大共鳴状態を微視的に記述できる理論枠組みを世界に先駆けて構築し、その適用により、巨大共鳴状態の一般的性質に関して重要な知見を得ることができた。特に、荷電交換型応答の系統的計算が可能になり、元素合成過程(R-過程)に関与する原子核のベータ崩壊率を微視的に計算し、元素合成ネットワーク計算へのインプットを与え、天体物理への応用が可能となった。
今年度は質量数が100-150程度の中重原子核を研究対象としてきたが、さらに重い原子核における集団モードの系統的計算を行い、巨大共鳴状態に関する普遍的な性質を明らかにしていく。
外国出張(ロシア)の旅費は他機関からの補助によって賄われ、当初の予定よりも旅費支払額が少なかったため。次年度は国内での会議が多数あり、国内旅費として使用予定
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