研究課題/領域番号 |
23740226
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
衛藤 稔 山形大学, 理学部, 准教授 (50595361)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 イタリア国 / 国際情報交流 チェコ / 対称性の自発的破れ / 位相的ソリトン / 分野横断的研究 |
研究概要 |
本研究の目的は「素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理」を分野横断的かつ有機的な繋がりを持った視点で研究し、自然現象の背後に潜む基本的な法則を理解することである。この目的を達成するために、先ずは個々の分野の問題を詳しく調べ、その後全ての自然現象に共通する法則を抽出する。特に「対称性」と「ソリトン」に着目することで分野横断的な研究が可能となる。本年度(H23年度)の研究実績は以下の通りである。1) 超対称BPS非可換渦のダイナミクス 2) 超対称SO/USpゲージ理論に置ける渦と単磁荷に関する研究 3) 磁場中に置かれたバリオン内部の異常電荷密度関する研究 4) 3成分ボーズ・アインシュタイン凝縮系に置ける3渦分子の構成に関する研究。更に進行中の研究として、5) 高密度QCDに置ける素渦の発見 6) 高次元時空中の平坦ドメインウォールによる膜宇宙模型の構成の2つがある。個々の研究概要は以下の通りである。1) 超対称BPS非可換渦のダイナミクスは渦のモジュライ空間の測地線を計算することで調べることが可能となる。ゲージ群の非可換性により良く知られたU(1)渦のダイナミクスとかなり異なる性質を示すことを明らかにした。(学術雑誌掲載済) 2) U(N)ゲージ理論における渦と単磁荷の関係は詳しく調べられているが、SO/USpゲージ理論でこれらを調べ渦と単磁荷の関係を明らかにした。(学術雑誌掲載済) 3)磁場中に中性子(核子)などのバリオンを置くと量子異常の為に内部に電荷が誘起されることをカイラルソリトン模型で発見した(出版中) 4) 3成分BEC系においてラビ振動を考慮に入れると3つの渦が一つになって分子を作ることを発見した。(査読中)これらの研究実績は研究目標にある通りに対称性とソリトンに着目した素粒子・原子核・凝縮系という一見異なった分野間を横断する画期的な研究となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は「素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理」という一見すると全く異なるエネルギースケールの自然現象を対称性とその自発的破れに注目して横断的研究を行い、自然現象を統一的に理解することである。本年度の研究では「研究実績の概要」に記入したように、1) 超対称BPS非可換渦のダイナミクス 2) 超対称SO/USpゲージ理論に置ける渦と単磁荷に関する研究 3) 磁場中に置かれたバリオン内部の異常電荷密度関する研究 4) 3成分ボーズ・アインシュタイン凝縮系に置ける3渦分子の構成に関する研究、5) 高密度QCDに置ける素渦の発見 6) 高次元時空中の平坦ドメインウォールによる膜宇宙模型の構成の6つである。このうち1)と2)が素粒子分野、3),5)が原子核(ハドロン物理)4)が物性系、6)が宇宙に関係した研究である。また、研究1),2)は数理物理的な研究でもある。このように本年度の研究では、研究目標である「素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理」の位相的側面、特に各分野におけるトポロジカルソリトンに関する研究を具体的に行った。特に系のトポロジー及び対称性とその自発的破れのメカニズムを詳しく調べ、ソリトンが存在することを示し、新たな物理現象の発見をした。これまでの研究は各分野を個別に詳しく調べてきたが、これらは本研究の主目的である分野横断的な理解に向けた不可欠なステップである。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度に開始した研究で現在研究途中である研究を完成させる。まず高次元膜宇宙論をトポロジカルソリトンの立場から理論的に構成する。高次元時空中のドメインウォールや渦紐は宇宙の時間発展に伴う相転移により自発的に生成される。その際に超対称性の破れや4次元時空の生成を同時に説明することが出来るが、標準模型のゲージ場をソリトン上に局在化させることが出来ないという基本的な困難が生じる。最近この問題が解決され、ソリトン宇宙論という新しい標準模型を超える理論を構成することが出来る可能性が高まっている。現在、非常に限られた模型ではあるが物質場とゲージ場を共存させるメカニズムを発見したので、その成果をまとめる。そしてカイラルフェルミオン等の実際に標準模型に登場する場を全てソリトン上に局在させることが出来る具体的な模型を構築する。第二の研究として、星の内部に置けるソリトンの役割について研究する。一つは中性子星の中でも特異なマグネターを星内部に存在するドメインウォールによる異常な磁化。もう一つは中性子星などのコンパクト星核中のカラー超伝導渦によるグリッチ現象の解明。第三の研究として、多成分BEC系の多渦分子形成の理論的研究を行う。この研究では比較的規模の大きな数値計算を行い、理論的な数値実験を行い、実際に実験室で渦分子が形成される様子を理論的に探る。これらの研究と初年度の研究結果を併せて検証し、個々の現象に共通する法則を抽出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は高性能デスクトップパソコン(100万円)の購入を計画していたが、本研究では個々のテーマが素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理という広範囲に及ぶため、効率的な研究活動を行うためにそれぞれの研究の進度に依存して研究費使用状況を柔軟に行う必要がある。特に初年度に行った研究では規模の大きい数値計算を必要としない理論的な研究を重点的に行った関係で、高性能パソコンの購入を次年度に繰り越した。本年度は、多成分BEC系における多成分渦分子の数値計算や、カラー超伝導渦紐の相互作用の計算など、比較的規模の大きな数値計算が必要となる研究を重点的に行うために、スペックの高いデスクトップパソコンを購入する。また、海外の共同研究者との研究打ち合わせなどを行うために出張旅費や必要な物品の購入、また本研究に関連したセミナー講演依頼の謝金や共同研究者の招聘を行う資金とする。
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