研究課題/領域番号 |
23740226
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
衛藤 稔 山形大学, 理学部, 准教授 (50595361)
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キーワード | 国際情報交流 イタリア国 / 国際情報交流 チェコ / 国際研究者交流 イスラエル / 対称性の自発的破れ / 位相的ソリトン / 分野横断型研究 |
研究概要 |
本研究の目的は「素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理」を分野横断的かつ有機的な繋がりを持った視点で研究し、スケールの全く異なる自然現象の背後に潜む基本的な物理法則を発見・理解することである。この目的を達成するためにまず各分野の問題を詳しく調べそして背後に共通する法則を抽出する。特に「対称性」と「ソリトン」に研究の着眼点をき分野横断的な研究を実行する。本年度は高性能パーソナルコンピュータを導入したことでより複雑な物理現象を数値計算により明らかにした。研究実績は以下の通り: 1) 3成分ボーズ・アインシュタイン凝縮系(BEC)の3渦分子の構成に関する研究 (物性)2) 超対称ゲージ理論のBPS非可換渦の有効理論に対する高次微分補正の研究 (素粒子理論)3) 0質量の非可換ゲージ場と物質場をソリトンに局在させるブーレンワールド模型の構成(素粒子理論)4) Dブレーンを用いた電弱理論における磁気単極子と電弱渦紐に関する研究(素粒子理論)5) 宇宙R紐と宇宙R筒の発見と真空の安定性に関する研究(宇宙論) 個々の研究概要は以下の通り:1)では3成分BEC系における新しいトポロジカルソリトンの存在を理論的に予想した。3成分BECは冷却原子気体を用いることで実験室での実現可能性高いので,この新発見は理論的予想に留まらず近い将来の観測による確認が期待される。2)と4)では渦紐と磁気単極子に関しての先行研究を更に発展させ,またDブレーンを用いた直感的な理解の方法を提案した。この直感的方法は単純であるが故に強力なので様々な応用が可能である。3)ではソリトン=4次元宇宙という画期的なアイデアを実現する模型を提案した。5)では数値計算を利用して真空と偽真空が存在する理論において新しい宇宙紐の存在を理論的に発見した。宇宙の進化の過程に様々な影響を及ぼす可能性がある興味深い発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は「素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理」を分野横断的かつ有機的な繋がりを持った視点で研究し、スケールの全く異なる自然現象の背後に潜む基本的な物理法則を発見・理解することである。 研究実績に概要に説明した通り,H24年度に学術論文に出版した論文の研究テーマは物性・素粒子・宇宙の3分野にまたがる。この3分野は全くことなるスケールを持つ物理現象であるが,本研究のキーワードである対称性と位相的ソリトンに着目し,素粒子スケール・原子スケール・宇宙スケールの新しいソリトンの発見や既存のソリトンの新しい理解の方法を提案した。更に現在査読中の研究論文としては,研究実績の概要に挙げたもの以外に a)ドメインウォールによる強磁性的な中性子星が存在する可能性を指摘した研究 (原子核・天体) b) 結び目理論を利用した新しいトーラスノット型ソリトンの発見(素粒子・数理物理)c) N成分BEC系のN渦分子の数値的構成とグラフ理論による理解(物性・数理物理)などの研究を行った。a) では天体スケールのソリトンがマグネターなどの未解明の強磁場を持つ天体の謎を明らかにする画期的な提案を行い、また b), c) ではグラフ理論や結び目理論を利用して物理的側面だけでなく数理的な側面からのアプローチも行った。これらの研究は個々の研究が分断されているわけではなく,「対称性の自発的破れ」という最も基本的な概念で互いに関係づいている。例えば,宇宙スケールのドメインウォールは我々の4次元時空そのものであるというブレーンワールド的なソリトンの解釈と,中性子星中のドメインウォールが中性子星を強磁性体にしているという理解,は全くスケールが異なるがドメインウォールそのものが発生する機構は同じである。このように個々の分野での研究を多の分野に応用して新しい結果を導くことに成功していてかつ研究対象が非常に豊富である。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度とH24年度において,素粒子・原子核・宇宙・物性・数理物理の各分野において多種多様な研究を実施してきた。最終年度であるH25年度でもこれらの研究を継続し発展させていく。特にH24年度に導入した高性能パーソナルコンピュータを用いた数値計算による解析を進めていく。既にH24年度において準安定な宇宙紐のダイナミクスやトーラスノット型ドメインウォールの発見,またN成分BEC系の渦分子の構成などを数値計算を用いて行っているが,これらを更に拡張させて新しいソリトンを発見したり,また従来の解析的手法では検証が難しい複数のソリトンのダイナミクスなどを直接的に調べていく。一方で数値計算を全く必要としない可積分系のソリトンの研究も進めていく。 具体的な研究内容は i) QCDのカラー閉じ込めを説明しうる双対超伝導状において本質的な役割を果たす磁気単極子のダイナミクスを可積分系ソリトンを用いいて厳密に解く ii) 多成分BEC系における新ソリトンの理論的発見 iii) 数値計算を利用した安定なトーラスノットソリトンの構成 iv) 準安定な宇宙紐(筒)のダイナミクスと真空の安定性 v)ソリトンによるより現実的な(標準模型に近いカイラルフェルミオンを含む)ブレーンワールド模型の構成 などである。 以上の研究を実行するために,これまでと同様に国内外の共同研究者と連絡を取り合い情報を流動的に交換していく。また外国にいる共同研究者と密接に連絡を取るために国外出張や研究者の招聘を積極的に行っていく。 本年度が本研究の最終年度であるので,これまでの研究を発展させるだけでなく総括していき,研究目的を確実に達成していく。特に,これまでの研究を総括するためにレビュー論文を執筆する予定である。また,本研究の結果を活かした新しい研究の素地作りを進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の研究結果を国内外で発表するために必要な小型ノートパソコンとソフトウェアの購入。 研究資料の購入および国内外にいる共同研究者との研究打ち合わせを行うための出張費や研究者の招聘を行う資金とする。
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