研究課題/領域番号 |
23740228
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤原 正澄 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (30540190)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノフォトニクス / ナノデバイス / 光物性 / 量子エレクトロニクス |
研究概要 |
本研究は、導波路による輻射場制御効果を用いて単一分子の吸収断面積を飛躍的に増大させ、非蛍光分子のための「光吸収検出型単一分子分光法」を開拓する事を目的とする。具体的には、ナノ光ファイバ結合ポリマー導波路デバイスを開発し、導波路内の輻射場制御効果によって分子の光吸収量を増大する。これにより実用レベルの信号強度を持つ1分子光吸収観測技術を確立し、非蛍光分子の一分子観察へ展開する。本年度はデバイスの設計・試作・特性評価に注力した。ナノ光ファイバ結合ポリマー導波路デバイスにおける1分子光吸収量の定量評価は、1分子からの発光と導波モードの結合効率を評価する事で可能であるので、ナノファイバ表面の単一量子ドットとナノ光ファイバ導波モードとの結合効率を実験的に決定した。その結果、単一量子ドットからの総発光量の7.4%もの発光が導波モードに結合している事を明らかにした。この値は、最大級倍率の対物レンズによる値に匹敵するものであり、量子情報処理や1分子センシングなどの単一発光体からの発光を効率よく検出する必要がある分野で特に大きな意義がある。事実、本研究は、ナノテク分野の権威であるNano Letters誌に掲載された。そして7.4%の結合効率の場合、室温においても0.1%程度の単一分子吸収という、通常の1000倍の光吸収増強が期待される事も明らかとなった。さらに、ナノ光ファイバとポリマー導波路を結合させた場合のデバイス特性を電磁場解析による数値シミュレーションにより評価し、最適なデバイス形状を探索した。またデバイスの試作にも取り組み、微細加工技術を用いて、中空に浮いた厚さ200nmの窒化シリコン(SiN)膜を作製する事に成功した。このSiN膜上にポリマー導波路を積層し、ナノ光ファイバを結合させることで、本研究の目標とするデバイスが実現可能であり、重要な技術的進展である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、SiNを基板とするナノ光ファイバ結合ポリマー導波路デバイスの設計と試作を行う事を目標とした。SiNはシリコン基板上に厚さ300nm程度の極薄膜として形成されているため、その下のSi基板をエッチングすることによって中空構造を形成する事自体が技術的な課題であった。これを最適なエッチング条件を見つける事で、厚さ200nm程度のSiN膜の中空構造をSi基板上に形成することに成功した。デバイスに用いる基板としてはシリカ(SiO2)膜よりSiN膜の方が良好なデバイス性能を示すために、本作成技術の確立は重要な進展である。またデバイス設計に関しても電磁場解析によるシミュレーションを行う事が可能となった。上述のようにデバイス試作において大きな進展があったために、今後は実際に製作可能なデバイス構造の構造最適化を数値シミュレーションによって行う事が可能である。また、本デバイス内での分子と導波モードの結合効率を見積もるために、ナノ光ファイバ表面に直接量子ドットを配置した場合の結合効率を実験的に決定した。その結果、実に単一量子ドットからの総発光量の7.4%もの発光が導波モードに結合している事を見出した。これは、本研究で開発するナノファイバ結合導波路においても非常に高い結合効率が実現できることを示唆する結果である。さらに、本年度は対物レンズによるポリマー膜中の単一量子ドット光吸収観測技術の確立を目指して、測定系の構築を行う事を計画した。これに関しては、必要な光学素子・ピエゾステージ・低ノイズ電流アンプなどを計画通りに購入する事ができ、測定系を組み上げる事ができた。現在、実際の光吸収観測測定を行う段階に突入しており、ここまで順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究推進については、(1)ナノ光ファイバ結合ポリマー導波路デバイスの構造最適化、(2)蛍光検出量増大によるその導波路デバイスによる輻射場制御効果の実証、(3) 単一量子ドットと非蛍光分子βカロテン単一分子の光吸収検出の実現を目標に据える。(1)のデバイス構造最適化については、H23年度に試作に成功しているために、数値シミュレーションと実際のデバイスとしての使用を行い、それらの結果をフィードバックする事でデバイス構造を最適化する予定である。(2)の導波路デバイスによる輻射場制御効果の実証に関しては、作成したSiN膜中空構造の上に量子ドットを含むポリマー膜をコートし、それに対してナノ光ファイバを光学的に結合する事で実現する。量子ドットを含むポリマー膜はナノ光ファイバとSiN膜導波路に挟まれるために強い光閉じ込め効果が期待される。デバイス内の単一量子ドットを対物レンズにより光励起し、ナノ光ファイバ端より射出される蛍光光子数を測定することで、量子ドットの総発光量の何%が導波モードに結合しているかを決定する予定である。(3)の単一量子ドットと非蛍光分子βカロテン単一分子の光吸収検出の実現は、H23年度に組み上げに成功した吸収観測光学系を用いて行う。まず、光学系の最適化やノイズに埋もれた微弱光吸収信号の検出技術を確立し、単一量子ドットの光吸収検出を実現する。その後、代表的な非蛍光分子であるβカロテンの単一分子光吸収検出を行い、世界に先駆けてその単一分子光学特性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、SiN膜基板の購入を予定している。平成23年度は業者の特別なご厚意により、SiN膜基板を少量購入する事でデバイスの試作に取り組む事ができた。既にデバイス試作の初期段階は終了したため、必要なSiN膜の特性が明らかとなっており、自信をもって通常の取り扱いロット数(1セット25枚、約25万円)を購入する事ができる。また、光学実験に用いる各種光学素子(手動精密ステージ・レンズ・ミラー・ミラーマウントなど約25万円)の購入を予定している。また、100x対物レンズの新規購入(約20万円)を予定している。これは光吸収検出実験に用いるものである。これらに加えて、昨年度購入した半導体レーザーチップの損耗による交換が予測されるため、レーザーチップの購入を検討している(数量3個:約25万円)。また研究成果の発表のために、国内学会(秋の応用物理学会・春の日本物理学会)での発表を予定しており、その旅費を予算計上している(あわせて約15万円)。その他にも、最適なデバイス構造の数値シミュレーション結果と作製方法に関する論文を出版予定であり、その論文出版費用(約10万円)が必要となる。これら以外に、平成23年度中に購入した光アイソレーター(約20万円)の支払いに使用する。
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