研究課題/領域番号 |
23740228
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤原 正澄 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (30540190)
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キーワード | ナノフォトニクス / ナノデバイス / 光物性 / 量子エレクトロニクス |
研究概要 |
本研究は、導波路による輻射場制御効果を用いて単一分子の吸収断面積を飛躍的に増大させ、非蛍光分子のための「光吸収検出型単一分子分光法」を開拓する事を目的とする。具体的には、ナノ光ファイバ結合ポリマー導波路デバイスを開発し、導波路内の輻射場制御効果によって分子の光吸収量を増大する。これにより実用レベルの信号強度を持つ1分子光吸収観測技術を確立し、非蛍光分子の一分子観察へ展開する。 本年度は、(1)デバイスの試作と(2)単一分子光吸収検出技術の構築を行った。デバイス試作に関しては、昨年度実現したSiN膜の加工が当初の予想以上に精密に行える事が分かったために、それを踏まえた上でデバイス構造の再設計に取り組んだ。そのために、有限差分時間領域法を用いたデバイス内での分子と輻射場の結合効率計算手法の確立と構造最適化を行った。その結果、より実験に即しかつ高効率な結合効率が実現可能なデバイス構造を決定した。現在、このデバイス構造の試作を行っている。 また、単一分子光吸収検出技術の構築に関しては、必要な透過型共焦点顕微鏡の構築を行った。透過型では、一分子を発光・吸収どちらでも検出可能となる。顕微鏡の構築を終え、発光による一量子ドットの検出にまで成功している。しかしながら、光吸収検出におけるノイズ除去が当初の予測以上に複雑である事が分かり、より詳細にノイズ原因を突き止めた上でノイズ除去を行う必要が分かった。 これらに加えて、単一分子(二準位系)と輻射場の結合を極限まで高める技術構築も行った。具体的には、極低温下でのナノ光ファイバ結合微小球共振器デバイスの実現や、そのデバイスに導入可能な、超狭線幅ダイヤモンド窒素欠陥中心の光学特性評価を行った。これらの研究は、輻射場制御によってどれだけ単一二準位系の吸収が高められるかを示すモデルとなると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、昨年度試作で成功したSiNを基板とするナノ光ファイバ結合ポリマー導波路デバイスを、より目的に最適化する事を目標とした。上述のように、FDTD(有限差分時間領域)法を用いたデバイス内での分子と輻射場の結合効率計算手法の確立と構造最適化を行い、より実験に即し、かつ高効率な結合効率が実現可能なデバイス構造の決定を行った。このデバイスはプロセスにより十分実現可能であり、ナノ光ファイバとの結合が可能である。この段階まで、研究を発展させられた事は非常に有意義であり、来年度にナノ光ファイバとの結合が十分期待される。また、デバイス最適化の過程で、分子と輻射場の高効率結合が実現可能な新たな導波路構造を発見した。この導波路構造提案は論文として投稿予定である。デバイス構造の試作に関しては、研究計画通り順調に進展していると言える。 一方、単一分子光吸収検出技術の構築に関しては、透過型共焦点顕微鏡における、発光検出を用いた一量子ドットの観測に成功したが、光吸収検出におけるノイズ除去が当初の予測以上に複雑である事が分かり、より詳細にノイズ原因を突き止めた上でノイズ除去を行う必要が生じた。そのため、ノイズ原因特定とその除去に関する実験を次年度引き続き行う必要がり、研究期間の延長申請を行った。次年度には、量子ドット及びβカロテンの吸収イメージング測定を実現する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究推進については、(1)分子-輻射場高効率家号のために最適化されたナノ光ファイバ結合ポリマー導波路デバイスの実現、(2) 単一量子ドットと非蛍光分子βカロテン単一分子の光吸収検出の実現を目標とする。 (1)のデバイス実現に関しては、上述のように既に構造設計は終了しており、デバイスの作成を行った後、ナノ光ファイバとの結合を実現する。また、上述の構造再設計の過程で、輻射場と分子を強く結合可能なナノロッド構造という新たなデバイス構造を発見した。この有用な構造に関しては、電磁界解析の結果をまとめて論文として投稿予定である。 (2)の単一量子ドットと非蛍光分子βカロテン単一分子の光吸収検出の実現に向けては、光吸収検出信号に重畳するノイズ原因を丁寧に調査し、ノイズ除去対策を行う予定である。昨年度の国際学会において、類似研究を行っている研究者よりノイズの大きな原因として、サンプル表面の光学的ラフネスを指摘された。現在は、サンプルをカバーガラス上にスピンコートして行っているが、コーティングパラメータの最適化や、基板表面の洗浄をさらに高いレベルで行う事で、この光学ラフネスの除去を行う予定である。平成25年度は、これらの問題を解決して単一量子ドットおよび単一βカロテン分子の光吸収検出を実現させる。 また、単一二準位系と輻射場の結合を極限まで高める技術構築については、上述のナノ光ファイバ結合微小球共振器に窒素欠陥含有ダイヤモンドナノ結晶を導入し、極限まで輻射場との結合効率を高めると共に、大きな光吸収観測の実現にも挑戦する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度に、吸収・蛍光両測定が可能な共焦点顕微鏡の構築を行い、量子ドット及び非蛍光分子βカロテンの吸収イメージング測定を行う予定であった。また、その内容を日本物理学会で発表する予定であったが、既述のように吸収イメージング測定のノイズ除去が当初の予測以上に複雑である事が分かり、より詳細にノイズ原因を突き止めた上でノイズ除去を行う必要が生じた。そのため、ノイズ原因特定とその除去に関する実験を次年度引き続き行い、量子ドット及びβカロテンの吸収イメージング測定を実現する。この結果を日本物理学会において発表する予定である(約5万円)。また、ノイズ除去などのために必要な若干の電子部品や光学部品を購入予定である(約6万円)。
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