本研究は、導波路による輻射場制御効果を用いて単一分子の吸収断面積を飛躍的に増大させ、非蛍光分子のための「光吸収検出型単一分子分光法」を開拓する事を目的とする。具体的には、ナノ光ファイバ結合導波路デバイスを開発し、導波路内の輻射場制御効果によって分子の光吸収量を増大する。これにより実用レベルの信号強度を持つ1分子光吸収観測技術を確立し、非蛍光分子の一分子観察へ展開する。本研究によって得られた主な成果として下記の3つがあげられる。 (1)ナノ光ファイバ表面に配置された単一量子ドットとナノ光ファイバ導波モードが、蛍光検出において7.4%の結合効率を有している事を示した。これは、室温においても0.1%程度の単一分子吸収という、通常の1000倍の光吸収増強が期待される結果で有り、結果はナノテク分野の権威であるNano Letters誌に掲載された。 (2)ナノ光ファイバと導波路を初めとするナノ構造体が結合した系において、分子の遷移双極子モーメントと導波モードの結合効率を数値計算によって詳細に研究した。この成果は現在論文投稿中である。 (3)そして、これらの知見を元に、実現可能な窒化シリコンを用いた中空導波路デバイスの試作に成功した点があげられる。窒化シリコン膜を用いた中空導波路は厚さ100nm程度と非常に薄いため、実現が疑問視されたが、それを実際に実証した事は大きな価値のある事である。 これらの成果は、輻射場制御効果を用いて単一分子の吸収断面積を飛躍的に増大させるというアイデアが実際に室温で実現可能である事を示唆する結果である。窒化シリコン中空デバイスの光学特性を改善していく事で、光吸収による単一分子分光に新たな展開がもたらされると期待される。
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