研究課題/領域番号 |
23740229
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 弘毅 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70565978)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 光物性 / 強相関電子系 |
研究概要 |
強相関物質である層状鉄酸化物LuFe2O4においては、電荷秩序(CO)がもたらす特異な誘電性が注目を浴びている。本研究では、この誘電特性の光制御を実現し、その機構をテラヘルツ領域ポンププローブ分光によって解明することを目的としている。既に研究代表者は、COの熱的融解(温度転移)に伴って光学伝導度σが急激に増加する事を見出していたが、CO相における光照射が同程度以上のσの増加、即ちCOの融解をもたらす事がわかった。このCO光融解は瞬時(~ 1 ps)に生じており、熱的な融解と本質的に異なる現象である。実際、この物質は高温で金属的でないにも関わらず、光励起後数 - 10 ps程度における差分σ(Δσ)スペクトルはDrude金属のものに類似していた。このようなCO光融解の超高速ダイナミクスは、幾何学的フラストレーションに伴う強い電荷揺らぎに起因すると解釈するのが自然である。光励起Δσの緩和過程は~ 1 psの早い寿命を持つ成分と、数十 - 100 psの遅い寿命の成分から成る。これらの大きさ或いは寿命はCO転移点に向けて発散的に上昇したが、注目すべきことに、早い成分が鉄原子層内(面内)COの転移点、遅い成分が面間COの転移点と、各々異なる特徴的温度を有していた。この結果は、前者が面内COの、後者が面間COの復元過程を反映することを示している。即ち光融解したCOは、およそ 1 psでまず面内の秩序が回復し、その後数十ps程度で面間の秩序が回復することがわかった。COの光融解、またその復元ダイナミクスにおける次元性の寄与が明らかになったが、より詳細な理解のため偏光依存性測定に着手した。予備的ではあるが、既に面内方向と面内方向とで明確に異なる光励起ダイナミクスの観測に成功した。今後より詳細な測定を進めてゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、層状鉄酸化物LuFe2O4において誘電特性の光制御を実現し、その機構をテラヘルツ領域ポンププローブ分光によって解明することを目的としている。光照射による誘電特性の変化は既に確かめていたが、本研究に際してはまずその起源の確認、特にそれが単なる熱的な効果ではない事の確認が肝要であった。光励起後の光学伝導度スペクトルを調べた所、誘電特性の変化は電荷秩序(CO)の融解によってもたらされており、またそれが熱的な効果では説明できない超高速ダイナミクスを伴っている事を明らかにできた。またそのダイナミクスは、CO転移温度に関連した特徴的な温度依存性を示した。その結果から、光融解したCOの復元機構として、まず鉄原子層内、次に層間で生じる秩序回復である事を明らかにできた。この様な異方的復元機構は偏光依存性測定にも反映されるはずなので、研究協力者との連携のもと必要な試料の作製を行い、既に測定にも取りかかっている。予備的ではあるものの強い異方性を示す結果も得られており、さらなる測定によってCOの光融解・復元ダイナミクスの解明に継がると期待できるので、全体として研究の進捗状況は順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
LuFe2O4におけるテラヘルツ領域ポンププローブ分光実験によって、電荷秩序(CO)が光で融解できること、及びそのダイナミクスの詳細が明らかになりつつある。さらなる測定によって、この機構の解明を目指す。偏光依存性測定は、既に当初予定より少ない研究費で予備的結果を得る事ができているが、今後より詳細な測定を進める。ポンプ或いはプローブ光を、鉄原子層と平行あるいは垂直にすることで、COの光融解及び復元過程の異方性を直接観測する。さらに励起強度依存性の測定も行い、融解時における協力的現象の有無を明らかにする。光源及び実験系の改良も継続的に行う。現在テラヘルツ光の帯域はおよそ1 - 10 meVであるが、光源の改良によってこれをさらに拡げ、広帯域スペクトルから光励起ダイナミクスをより詳細に考察する。また、高強度テラヘルツ光源の開発も進め、高強度テラヘルツ光によるCO融解の可能性も探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
偏光依存性測定あるいは光源開発のためには、偏光素子を始めとする各種の光学素子が必要である。これらの素子や測定試料を保持するための機械部品類が必要である。光検出器等を設定・配置するために、電子部品類が必要である。また、得られた成果について学会等で議論を行うための旅費が必要である。
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