研究課題/領域番号 |
23740230
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西松 毅 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70323095)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 分子動力学シミュレーション / フリーソフトウェア / PbTiO3 / FeRAM / 第一原理計算 / ドメイン構造 / 相転移 |
研究概要 |
西松はペロブスカイト型強誘電体に特化した高速分子動力学計算プログラムを開発し,フーリーソフトウェア「feram」として http://loto.sourceforge.net/feram/ から配布している.平成23年度には5回のバージョンアップを行い,2012年2月29日リリースしたferam-0.18.05.tar.xzが現在最新のバージョンである.平成23年度には100を越えるダウンロードがあり,世界中で使用されている.最新バージョンでは,本研究の不揮発性強誘電体メモリのインプリント現象の解明のために,(i) 膜中欠陥モデル:強誘電体膜中の電気双極子モーメントをもつ欠陥と,(ii) 強誘電体-電極界面モデル:長時間の分極の下,界面のイオンの移動等により界面で双極子を持った欠陥とのシミュレートが可能になりつつある.(i)については日本物理学会で『強誘電体ドメイン境界の格子欠陥によるピン留めの分子動力学シミュレーション』のタイトルで発表を行った.(ii)の強誘電体-電極界面モデルについては,片側の電極のみに分極した欠陥が成長した状況をシミュレートできるようになり,新しい成果が期待できる.関連する研究としてPbTiO3の90°ドメイン構造の研究を行った.PbTiO3のための有効ハミルトニアンのパラメータを新しく決定し,その昇温/降温分子動力学シミュレーションを行った.単一ドメインの強誘電相を初期状態とする昇温シミュレーションでは677Kで常誘電相への相転移が起きた.各サイトの分極がランダムな方向に向いた常誘電相からの降温シミュレーションでは,バルクのシミュレーションで結晶中に反分極場ができないのにもかかわらず,90°ドメイン構造ができ,それが592Kで凍結された.上記2つの相転移温度の平均値634Kはその実験値763Kより多少低いがよく一致している.現在論文を投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
震災の影響があり,「長時間分子動力学シミュレーター」の導入が遅れたが,現在ではシミュレーションプログラムが高速に動いている.高度な並列化によって実行速度が速くなったためである.欠陥と強誘電体中の歪みとの相互作用の理論的取り扱いが困難があり,プログラムの変更が多少遅れている.しかし,PbTiO3の90°ドメイン構造のシミュレーションができるようになるなど思いがけない成果もあった.
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今後の研究の推進方策 |
今後,上記の困難をなんとか解決し,プログラムを変更する.初年度の分子動力学計算をつづけるとともに,その結果と比較しながら,ABINITコードを使った第一原理計算により,強誘電体薄膜キャパシタの膜中もしくは膜と電極との界面の電気双極子モーメントを持つ欠陥のミクロな構造を探索する.第一原理計算フリーソフトウエアABINITは機能が豊富で,例えば,このような計算に必須のBerry位相による分極の計算が可能である.また,西松はABINIT開発の contributors の一員でもある.膜中の欠陥については,欠陥の双極子がそのまわりの自発分極に対してferro的なのかantiferro的なのかが重要であろう.それがヒステリシスループにどのような影響をあたえるのかはまったく理解されていないのが現状であり,第一原理計算と分子動力学計算の両方のアプローチで解明したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
上記について議論するためインドJNCASRのUmesh Waghmare教授の研究協力を得る.インド・バンガロールを訪問する.Waghmare教授 (http://www.jncasr.ac.in/waghmare/) は強誘電体の物性の理論的研究を精力的に続けている研究者である.ここ数年,お互いの研究所に長期間滞在するなどして共同研究を続けている.引用数の多い論文を数多く著しており,本研究についても的確なアドバイスを得られる.1年目に導入した「長時間分子動力学シミュレーター」は2年目に計算量が増えるであろうことを考慮し計算資源を追加する.また,成果発表のための旅費と印刷費,論文投稿料の支出を予定している.当初支出を予定していた計算機使用料は「京コンピュータ」が利用できるようになったので,上記海外旅費と計算機資源の増強に充当したい.
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