吸着原子が誘起する2次元電子系の研究においては超高真空下での劈開・蒸着による試料作製およびその環境を維持したままで、極低温(4.2K)・強磁場下(14T)での面内電気伝導測定と走査トンネル分光顕微鏡による表面観察・エネルギー分光が可能な装置を用いて測定を行った(この装置は24年度までに自作し、装置の性能評価実験を行ったものである)。実際に研究を行った系はInSb劈開表面上に鉄原子を0.01原子層吸着させたものである。14Tまでの面内電気抵抗測定では複数サブバンドの寄与による量子ホール効果を観測した。また、ゼロ磁場の電気抵抗値と電子濃度から見積もられる電子移動度は11m^2/Vs程度であり、吸着原子が誘起する2次元電子系において最良の試料作製に成功した。走査トンネル分光顕微鏡を用いた実験では、表面観察の結果から鉄原子の密度と安定サイトを評価することができた。さらに、トンネル分光による状態密度の測定から電子散乱に寄与する乱れの大きさを評価するに成功した。 GaAs劈開表面上に作製された単原子層の鉛を用いた研究においては、ヘリウム3冷凍機温度までの冷却に成功し、明瞭な超伝導転移を観測した。さらに面内磁場を印加する実験においてはパウリ限界より一桁近い高い磁場まで超伝導状態が変化しないという驚くべき性質を発見した。空間反転対称性のない超伝導体の理論計算と対比させることにより、超伝導秩序関数が空間的に変化するヘリカル相という特異な超伝導体が実現していると考えられる。
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