本研究は、金属単原子ワイヤーの力学特性と電気特性の同時計測システムを構築し、金属単原子ワイヤーにおいて生じることが理論的研究により提案されているCurrent-induced force(電流誘起力とする)について、その特性を実験的に明らかにすることを目的としている。本年度は、まず昨年度の研究において課題となった計測装置の安定性(単原子ワイヤーの安定性)の改善を図った。回転ロッドの制振、回転―直動変換機構の再設計と製作、ブレークジャンクション用基板形状の検討、電気回路のノイズ対策を行った結果、単原子ワイヤーの安定性が向上した。次に、力学特性計測用のチューニングフォーク(TF)により検出される物性値について定量的に検討した。TFの振動方向が単原子ワイヤー軸に対して平行および垂直の2方向となるようにTFを配置し、それぞれの配置で得られる物性値を原子間力顕微鏡(AFM)を利用して検討した。その結果、平行方向配置では単原子ワイヤーのバネ定数とTFの共振周波数変化の相関は、従来の単振動近似ではなく、結合振動近似の方が定量的により良い近似を与えることが分かった。垂直方向の配置では、TFに作用した力に応じてその共振周波数・振動振幅が変化することを確認した。このような知見と構築した計測装置により、極低温下で単原子ワイヤーの電気伝導度と力学特性の同時計測を試み、TFの配置が上記2方向共に計測可能であることを確認した。検出される力学特性のバイアス依存性を検討したが、明確な依存性は見られなかった。そのため、S/N比の更なる改善やワイヤーの寿命計測の併用等により、電流誘起力に関するより詳細な知見を得るための研究を継続している。
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