研究課題/領域番号 |
23740238
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
宮内 良広 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 助教 (70467124)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 双極子相互作用 / クロロフィル / 赤外分光法 / 光和周波分光法 |
研究概要 |
本年度はクロロフィル分子間の高速な電子遷移過程の原因を明らかにすることを目的として、その色素の一種であるフェオフィティン-aのケトン基に18O同位体修飾を施し、そのLangmuir Blodgett(LB)薄膜を全反射赤外分光法(ATR-FTIR)で観測することにより、薄膜内で双極子相互作用によるC=O伸縮振動の変調が起きることを調べた。現段階では修飾した色素のLB膜の作成が出来ておらず、まだ双極子相互作用の観測には至っていない。しかし、本年度の研究で双極子相互作用のシミュレーションプログラムの開発に成功し、本プログラムによってSi(111)1×1表面の水素脱離ダイナミクスに関する新規知見を得ることが出来たことは大きな研究実績である。 水素終端Si(111)1×1表面の構造は未だ決定されておらず、また同表面での水素脱離ダイナミクスも十分理解されてはいない。そこで、我々はSi-H分子振動ピークの起源を理解するために光和周波(SFG)分光法を用いてSi(111)1×1表面の被覆率変化に伴うSi-H基の伸縮振動の振動ピークの変化を観察したところ、ピーク波数のレッドシフトとピーク幅の広がりを観察した。これを今回開発したプログラムによって解析をしたところ、ピーク波数変化は計算された双極子相互作用による波数変化と定量的に一致し、帰属することができた。さらに、in phaseの振動モードの変調では説明のつかない不均一幅広がりが起きていることが分かった。この広がりは脱離に伴い表面上に欠陥が生じていることを示唆している。この様に、Si表面の水素脱離ダイナミクスに関する新規知見を得ることができた。 この成果は本研究計画としてもこのプログラムによってクロロフィル薄膜内の双極子相互作用による分子振動の変調が定量的に解析できることを示しており、大きな到達点の一つであると自負している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では(1)双極子相互作用シミュレーションの確立 (2) フェオフィティン-a(pheo-a)色素のLB膜の作成法とその観測方法の確立、(3)同色素のケトン基のO18同位体修飾の確立を3つの柱として定め、研究を進めてきた。その結果(1)~(3)のほぼ全ての項目をクリアしたものの、修飾した色素のLB膜が作成出来ないという問題が生じ、まだこの膜の双極子相互作用の観測は行えていない。以下に詳細を述べる。 (1)に関してはすでに完成しており、このシミュレーションによってSi(111) 1×1表面からの水素脱離過程に伴うピークシフトが双極子相互作用に帰属できることを示した。(2)に関しても確立したと言える。LB膜をpH=8.0, 1.0×10-4Mのリン酸緩衝溶液のSub phase上に0.5mg/mlのフェオフィティン-a(pheo-a)を溶かしたCHCl3を滴下し、0.1mm/sのスピードでZeSe基板を引き上げて作成し、これをATR-FTIR法で観測した。その結果,1700cm-1に鋭いC=O基の伸縮振動が観測され、配向の整った薄膜が出来ていることが分かった。 (3)に関しても同位体修飾自体は成功したと言える。同位体修飾は2mgのpheo-a を脱水CHCl3(0.2ml), H2O18(0.1ml)、トリフルオロ酸(TFA, ~40μl)に一週間漬けた後、カラムクロマトグラフィで抽出した。CHCl3溶媒内でこの赤外観測を行ったところ、ケトン基が修飾されたことを示す1670cm-1のピークが観測されたが、1650cm-1にも不明なピークが現れ、修飾の際に生じた劣化成分が混在し、その結果LB膜が作成できないことが分かった。今後速やかに修飾やカラムクロマトグラフィの条件を変えて劣化成分が混ざっていないpheo-a分子の修飾を行い、その薄膜の双極子相互作用を観測する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は同位体修飾したpheo-a膜の双極子相互作用のATR-FTIR観測を速やかに終えた後、クロロフィル膜の単分子層を可視-赤外光和周波分光(SFG)法による観測を行う。SFG法は対称性に極めて敏感であることがから、LB膜内の単一層の分子振動を選択的に観測することができる。また、可視光を可変にすることにより、電子状態にチューニングできることから、そのVibronic状態を観測することができる。この分光法の特性を生かして、クロロフィル膜内の一層の配向状態、Vibronic状態の変化を観測する。特に本研究では色素増感型太陽電池(DSCs)の変換効率を妨げる原因となっている電子逆輸送過程の観測を行い、この詳細な過程を明らかにする。この逆輸送過程はミリ秒オーダーでTiO2粒子から界面の水を媒介として色素へと電子が逆方向に移動する現象であり、その詳細な過程は未だ理解されていない。そこでまず、クロロフィル色素をwell-definedなルチル型TiO2(110)基板上に成膜を行う。次にポンプ-プローブ時間分解光学系を構築する。具体的にはナノ秒355nmのポンプ光でTiO2表面を励起し、電気回路で数ms遅延させたプローブ光を用いることによりその時間変化をプローブする。尚、水/TiO2界面の色素のVibronic状態及び水分子の振動状態の変化はSFG分光法で観測し、またTiO2表面での電子状態変化を光第二高調波発生(SHG)法で観測する。本研究により、どの深さの色素の層で支配的に電子の逆移動が起き、またどのようにVibronic状態が変化するかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究に必要なSFG観測システムはすでに構築済みであるため、大きな設備投資を行う予定はない。それ故、ポンプ-プローブ光学系構築のための光学消耗品(プリズム、光路切り替え機構、ハイパスフィルタ等)が主な使用用途となる。その他、色素やTiO2基板の購入や薄膜形成のための消耗品(アセトン、ベンコットン等)の購入を予定している。
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