まず本研究の目的は固体表面上の分子の双極子-双極子相互作用を理解し、特に光合成初期のクロロフィル分子間の超高速電子移動を理解するところにあった。その第一歩として双極子-双極子相互作用が起きることが知られているH-Si(111)1×1面をモデルケースとして選び、その脱理過程に伴う、分子振動変調の観測と解析を行った。 Si表面の水素脱離過程はCVD法による良質なa-Si膜を作成するための重要な基礎過程である。 その水素脱離過程とはSi-H結合の切断を伴う過程である。しかし、水素脱離過程における構造変化などがどのようにSi-H結合状態にフィードバックされるのかということもまだ理解されていなかった。 この過程を理解するためにSi基板を722Kに~10秒加熱し、室温に戻してSFG観測を行うということを繰り返して、SFGをプローブとして等温脱離の実験を行ったところ、Si-H伸縮振動に対応したピークが赤方変移し、さらに不均一幅広がりが起きていることが分かった。これを双極子相互作用の理論計算で再現したところ、ピークの赤方変移を良く説明出来ることが分かり、この赤方変移は双極子相互作用の効果であることが分かった。一方、幅の広がりはこの効果では説明出来ず、可能性のある原因を考えた結果、局所的な構造欠陥または未結合種に由来することが分かった。 なお、この研究を土台として、当初予定していたクロロフィル薄膜間の双極子相互作用による超高速電子移動過程の研究を行う予定であったが、多様な試行錯誤にも関わらず、Langmuir Blodgett (LB)法による均一なクロロフィル薄膜を形成することができなかった。この研究については他のポリフィリン系色素で薄膜を形成しやすい分子を用いて今後行う予定である。
|