研究課題/領域番号 |
23740239
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
浅香 透 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80525973)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 誘電体 / マルチフェロイックス / 磁性体 / 電子顕微鏡 |
研究概要 |
23年度は室温でマルチフェロイック物性を示すヘキサゴナルフェライトを主に対象として研究を行った。まず、冷却実験可能な電場印加その場観察用試料の作製についてイオンミリング法による検討を行った。多結晶および単結晶試料に対しイオンミリング法で電子顕微鏡観察用試料を作製し、独自に設計したアルミナ冶具上に配置し金スパッタにより電極形成を行った。このように作製した試料を2端子を有する低温電子顕微鏡ホルダーにセットし、電子顕微鏡内で電場を印加した。本手法による電場印加は成功し、電場印加時の電子顕微鏡像の変化を観察し、同時に電圧―電流特性の計測を行うことができた。本手法の開発により低温電場印加その場観察が可能となった。これにより幅広い試料に対して電場印加下での結晶構造的、電気的、磁気的ドメインの変化を観察できる。 走査電子線回折法による強誘電・磁性ドメイン観察手法の開発について、まずはヘキサゴナルフェライトの強磁性ドメインに対して試行した。実際に試料内磁場による電子線の偏向を計測、データ収集を行った。収集したデータをコンピュータ処理により画像構築した。本手法によりドメイン計測が可能であることが分かった。 室温でマルチフェロイック物性を示すヘキサゴナルフェライトについて、らせん磁気秩序に起因したと考えられる変調構造を見出した。観測された変調構造はらせん磁気秩序と同じ周期で発達しており、出現温度に関しても磁気転移と同様であった。このようならせん磁気秩序に関係した変調構造は他のマルチフェロイックヘキサフェライトにおいても見出されており、共通した物性である可能性がある。このヘキサゴナルフェライトについて、ローレンツ電子顕微鏡法により磁気ドメイン観察を行った結果、特徴的なドメイン構造が観察された。この特徴的なドメイン構造はらせん磁気秩序によるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温電場印加その場観察手法の開発については首尾よく進行している。24年度には実際に低温での電場印加実験に取り掛かることができる。走査電子線回折法による強誘電・磁性ドメイン観察手法の開発については強磁性ドメインの観察ができるところまで達成しているが、強誘電ドメインについては現在進行中である。マルチフェロイック物質の変調構造や結晶学的、磁気的ドメインの観察にも成功しており、順調に進行している。 以上のように、全体的には予定通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に開発した冷却実験可能な電場印加その場観察用試料作製法をさらに改良し、耐電圧の向上を試みる。改良した手法によりマルチフェロイック物質の電子顕微鏡観察用を試料を作製し、低温電場印加その場観察により電場変化における結晶構造的、電気的、磁気的ドメインの変化の観察を行う。 走査電子線回折法による磁気的ドメインの観察における高分解能化および高精度化を試みる。また、本手法により電気的ドメインの観察を試行し、改良を通して、強誘電体およびマルチフェロイックスへの応用を行う。マルチフェロイックスに対して走査電子線回折法による観察を上記ドメインに加えて結晶学的ドメインに対しても行い、統合的にドメイン構造を解析する。 マルチフェロイックスの結晶学的構造の解析を23年度より引き続き行う。特にヘキサゴナルフェライトの変調構造解析については本研究で見出した重要な構造物性であるため、重点的に行う。現在解析中のヘキサゴナルフェライトの変調構造の解析およびドメイン観察を行ったのち、らせん磁気秩序を有する関連化合物についても同様の評価を行い、本研究で見出された変調構造がらせん磁気秩序を有する物質に共通であるのか確認する。 本研究の総括として、上記の走査電子線回折法をはじめ、各種のドメイン解析法を駆使し、それを23年度に本研究で開発した冷却電場印加その場観察手法および磁場印加その場観察手法と組み合わせ、マルチフェロイックスに応用する。これによりマルチフェロイックスの物性をミクロスコピックな観点で理解し、まとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度は走査電子線回折法を確立するために、研究経費の支出を主に走査電子線回折システムの導入に充てた。しかしながら外国製品のために納品に時間がかかり、それに付随する研究にかかる消耗品などの購入を先送りにしたことにより、次年度使用研究費が生じた。例えば本システムを使用した電子顕微鏡観察用の試料作製用消耗品などである。また、学会出張費について、他予算からの支出が可能となり、当初予定額の使用を行わず、24年度に繰り越した。 本研究の目的を達成するために電場印加その場観察による各種ドメインの振舞を観測する必要があるが、これまでの直流電場に加えて交流電場によっての評価も興味あるところである。そこでこれまで使用してきた直流電源以外に交流電源装置を23年度繰越分を加えて購入し、交流電場下でのその場観察を行う。 ひきつづき電場印加その場観察のための電子顕微鏡試料作製に使用する消耗品の購入に本研究費を使用する予定である。 研究成果発表のための学会参加費、旅費、論文出版費などに研究費を使用する予定である。
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