研究課題
初年度においては、本研究の目的である軌道成分まで分解した電子状態観測を遂行するために必要な要素技術の開発を行った。まず、最も重要な技術である測定槽での試料のアジマス回転機構を制作し、超高真空下での動作テストから設計通り試料を回転できる事を確認した。また、もう一つの要素技術である顕微システムの開発も行い、入射するX線と同軸で試料の様子を観測できるようなミラーシステムを開発した。これにより、アジマス回転の前後で試料上の測定位置を変えないように試料位置を調整でき、さらには直径50μm以下に集光したX線と組み合わせる事で顕微硬X線光電子分光測定の実現も可能であると考えられる。予定していた放射光を用いた光電子分光実験には至らなかったが、上述の要素技術の開発が終了しているため、次年度の測定にて軌道分解測定を実現できると考えている。 さらに、次年度に予定されていたV2O3の顕微軟X線角度分解光電子分光測定に成功した。V2O3は三次元の結晶構造を持つため、劈開性が非常に悪く、これまでフェルミ面観測を伴う角度分解光電子分光測定に成功した例はなかった。これらの技術的問題を解決する為に、微小劈開面(直径50μm)を顕微システムを用いて選び出す事ができる軟X線角度分解呼応電子分光を行い、初めてV2O3のフェルミ面観測とバンド構造の測定に成功した。この測定により電子相関の繰り込みを伴った準粒子バンドの幅が全体で500 meV 程度である事明らかになった。さらに、温度変化測定を行い金属絶縁体転移に伴うバンド構造の変化を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
直線偏光依存硬X線光電子分光測定に必要不可欠であるアジマス回転マニピュレーターの製作、及びX線と同軸で試料を観測する超作動距離顕微鏡システムの構築は終了し、初年度のうちに予定していた要素技術の開発に成功している。放射光施設での実験スケジュールの都合から現時点で測定には至っていないが、次年度の上半期に測定する事が予定されている。 一方、次年度に測定を予定していた顕微軟X線ARPESによるフェルミ面観測とバンド構造観測を初年度のうちに成功した。次年度においては得られた結果をもとにより詳細な高エネルギ-分解能測定を予定し、放射光施設のマシンタイムの確保に成功している。以上を総合すると、研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
次年度では直線偏光依存硬X線光電子分光測定を行い、測定技術、ノウハウの確立する。V2O3価電子帯の直線編光線二色性の測定を行い、軌道成分を分離した電子状態観測の実現を予定している。また、初年度における要素技術の開発から、本研究計画を遂行する為に以下に示す装置の改良が必要である事が判明したため、次年度で改良を行う。1)まず、長作動距離顕微鏡で観測した映像をパソコン上に取り込み、測定位置のマーキング等の画像処理を行う為のプログラムを整備する。これにより、試料回転の前後で測定位置が大きく変えずに偏光依存測定を行う事が出来る。2)また、顕微鏡システムを設置した事で既存の光電子分光装置の架台では直線編高度を評価するシンチレーションカウンタの設置スペースがなくなった。この問題を解決する為に、次年度では装置架台の改良を行う。また試料冷却装置の除振機構の開発も予定している。 また、初年度にて顕微軟X線角度分解光電子分光に成功し、Fermi面の観測やバンド構造を明にしてきたが、実現困難な世界初の実験であった為、エネルギ-分解能は160 meV と比較的悪くセットされていた。次年度以降ではより詳細な電子状態観測を行う為に、V2O3の高分解能測定、Crを少量ドープした試料に対する組成依存性の測定を計画している。次年度は、すでに軟X線光電子分光装置の高分解能化調整も計画しており、放射光施設でのマシンタイムも確保している。今後は直線偏光依存硬X線光電子分光測定と組み合わせた研究を推進する。
本研究計画を遂行する為に必要な顕微鏡画像処理プログラムと、直線編高度を計測する為のシンチレーションカウンタの設置スペースを次年度の研究費を利用して製作する。また、試料冷却に伴う振動が顕微測定に影響を与えることが予想されるので、除振機構の製作を行う。 また、初年度において顕微軟X線角度分解光電子分光によるV2O3のフェルミ面観測に初めて成功したので、国際会議での発表を予定している。しかしながら、高分解能測定や組成依存性の測定等の課題を残しているため、次年度において追加実験を計画している。結果、硬X線光電子分光測定の調整や本測定を含めると複数回の出張実験が計画されているため旅費が必要である。
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