研究課題/領域番号 |
23740240
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤原 秀紀 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00397746)
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キーワード | 硬X線光電子分光 / 軟X線光電子分光 / 角度分解光電子分光 / 金属絶縁体転移 |
研究概要 |
H24年度においては、軌道成分を分解した電子状態観測を遂行するために必要な、顕微鏡システム保持機構等の設計、製作を行った。また、硬X線光電子分光用の光学系の高度化に取り組みK-B配置の集光ミラーを新たに導入することで、励起光のスポット径を20*30平方マイクロメートルまで集光することに成功した。(K-Bミラーは共同研究者の理科学研究所玉作憲二研究員のご協力により借用させていただいた。)これにより、価電子帯スペクトルの測定スピードの大幅な向上(5倍以上)に成功した。硬X線領域での価電子帯光電子分光の軌道分解直線偏光依存性測定を実現する為に極めて重要な要素技術である。さらに、高精度の直線偏光依存性測定の為に、ダイヤモンド位相子を二枚利用した完全直線偏光スイッチングの調整に取り組んだ。現時点で厚み0. 25 mmのダイヤモンド位相子を1枚用いた場合、直線偏光度72%、透過率73%と見積もられている。残念ながら昨年度中に完全直線偏光制御までは成功しなかったが、同じ厚みの位相子を二枚利用した場合の透過率は53%と想定されるため、位相子を二枚使用しても、従来の厚さ0.7mmの位相子(直線偏光度94%、透過率 34%)より効率の良い測定が期待できる。 V2O3の顕微軟X線角度分解光電子分光(ARPES)測定においては、SPring-8の軟X線ビームラインBL25SUの電子分析器のエネルギー分解能の調整および測定効率の向上に取り組み、これを達成している。また、光電子スペクトルの試料位置依存性の測定を通して、顕微光電子分光測定の実験ノウハウの構築に成功した。以上の成果を国際会議ICESS(フランス、サンマロ)、Wuerzuburg大学(ドイツ)において研究報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高精度、高効率の直線偏光依存硬X線光電子分光測定に必要不可欠な微小集光X線に成功し、さらに完全直線偏光スイッチング技術構築に必要なノウハウに見通しを付けた。その他、マニピュレータや同軸顕微鏡システムの準備の開発は終了している。現在の進行状況は時期的に見れば予定よりやや遅れているものの、微小集光技術や完全直線偏光制御技術の開発を行うことで当初よりも遥かに高効率で高度な測定系の構築が期待できる。また、顕微軟X線ARPESによるフェルミ面観測とバンド構造の詳細観測を可能とする電子分析器の高効率高分解能化に成功し、900 eVの入射光エネルギーで分解能100 meV の条件で測定できる状況が整った。一方、前年度では試料の経年変化等の影響もあり、高精度のARPESスペクトルの測定には至らなかったため、最終年度前半の課題として取り組む。これにむけて、単結晶試料の依頼とビームタイムの確保は完了している。以上を 総合すると、研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では直線偏光依存硬X線光電子分光測定を重点的に行う。年度前半では、光学系の調整に重点を置いた為に実装できなかったアジマス回転ピューレータ、同軸ミラー、超作動距離顕微鏡システムを取り付け、微小集光X線を用いた顕微測定かつ直線偏光依存性測定を中心的に取り組む予定である。 また、V2O3の顕微軟X線光電子分光測定の最終データを計測する。エネルギー分解能 160~180 meVでの測定が限度であったバンド構造の計測を、分解能100 meVで測定する。また、Crを1.5%ドープしたV2O3の測定も行うことで、金属絶縁体転移に際したバンド構造の変化を明らかにする。以上の目標達成に必要な純良単結晶試料の依頼、およびビームタイムの確保は完了済みである。また、これらの結果を国際会議SCES2013(開催地 東京)において報告する。
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次年度の研究費の使用計画 |
直線偏光依存硬X線光電子分光測定、顕微軟X線光電子分光測定ともシンクロトロン放射光施設での出張実験が必要である。加えて、国際会議で成果を発表する為に旅費が必要である。また、硬X線光電子分光装置への同軸顕微鏡機構およびマニピュレータの取り付けの際にアダプタとなる真空部品やガスケット等の消耗品費が必要である。
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