研究課題/領域番号 |
23740241
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
塚田 真也 島根大学, 教育学部, 助教 (90570531)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | リラクサー / 強誘電体 / ポーラーナノリージョン |
研究概要 |
強誘電体における不均一性(ポーラーナノリージョン)が巨視的な性質に与える影響について研究を行っている。本年度は2年間の計画の1年目に当たり、リラクサー強誘電体Pb(ZnNb)O3-PbTiO3単結晶の光散乱と誘電率測定を行った。ブリルアン散乱より「音響フォノンのエネルギー・幅」を求めて、「緩和現象」とを繋ぐ物理モデルを構築した。妥当性を確認し、導出した緩和時間の挙動について考察を行ったところ、緩和過程の活性化エネルギーがPbTiO3の濃度に大きく依存し、モルフォトロピック相境界で急激に大きくなることが分かった。また、ガラス転移の研究で用いられている動的相関長(緩和時間×縦波音速)をリラクサー強誘電体において計算した結果、中性子散漫散乱から求められる相関長と同様の結果を得ることが出来た。これらの結果は、PbTiO3の濃度が大きくなるにつれて、ポーラーナノリージョンが相転移に与える影響が小さくなっていくことを示しており、本研究では、その小さくなる過程を示すことが出来た。以上の知見は論文にまとめ、学術誌に投稿中である。 また、光散乱の測定周波数を大きくするために、本研究費で分光器と検出器を購入し、ラマン散乱を測定するシステムを構築した。今後、ブリルアン散乱(GHz領域)とラマン散乱(THz領域)を相補的に利用し、より統一的な理解を試みる。 以上の研究と並行して、ダイポールグラスであるNiを添加したKTaO3単結晶の育成を試みた。育成した結晶に電極を適切に選ぶことで、巨大な誘電率(100000以上)を発現させることが出来、界面の影響が原因であることが分かった。この結果も界面という局所的な構造が巨視的な性質に大きな影響を与えるという結果で非常に興味深く、Applied Physics Lettersに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、・顕微ラマン分光装置の立ち上げ・リラクサー強誘電体におけるブリルアン散乱実験の結果をまとめること を遂行することが出来た。不均一を含んだ強誘電体の結晶探索については計画より遅れているが、代わりに「強大な誘電率を有するNi-KTaO3」を発見することが出来た。界面が巨視的な性質に与える影響を考察することが出来、不均一性が巨視的な性質に与える影響に対する理解が深まった。
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今後の研究の推進方策 |
不均一(ポーラーナノリージョン)の量をアニールにより制御したPb(InNb)O3について、ブリルアン散乱・ラマン散乱といった光散乱実験を行う。 また、電場下でポーラーナノリージョンの緩和過程がどのように変化するのか、光散乱実験により明らかにする。必要に応じて、誘電率や比熱・格子定数を測定し、2年間の成果をまとめる。 さらに、本年度は、学会に多く参加する。1年目の結果を報告すると主に、次の展開や新しい見方を他研究者との議論の中で深めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度、「11.現在までの達成度」に書いたように試料探索が遅れており、それに伴って予算の執行が遅れている。今年度は、試料探索を再開し、試薬や光学部品といった消耗品や旅費として研究費を使う。
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