不規則性を有する強誘電体は,複雑な相転移とその前駆現象を有する.不規則性を有する強誘電体は,次世代の圧電素子やコンデンサに必要な巨大な電気応答を示し,メゾスコピック系の物性物理学の発展と共に工業的にも非常に重要である.巨大な電気応答の理由は,ナノメートル程度の局所領域であるポーラーナノリージョンの存在にあり,それらは温度や電場と言った外場により大きく変化する.本研究では,ポーラーナノリージョンの外場に依る成長過程を解明を,分光的手法(ラマン分光・ブリルアン分光)・誘電率測定・構造物性より試みた. 試料に,ポーラーナノリージョンを有する「リラクサー強誘電体」と「フッ化カリウム添加チタン酸バリウム」を用いた.相転移のソフトモードである緩和現象を音響フォノンを通して確認して,温度依存性をスーパーパラエレクトリックモデルで説明し,活性化エネルギーを導出した.また,ガラス転移の理論を応用して動的相関長を求めて,ポーラーナノリージョンのサイズとの比較を行った所,良い一致を示した.「ポーラーナノリージョンの成長過程や振る舞いは,リラクサー強誘電体とチタン酸バリウムでどのように異なるのか.」という疑問に対して,「ポーラーナノリージョンの成長過程が2試料の違いである」という明確な回答を得ることができた.チタン酸バリウムは,ポーラーナノリージョンが相転移するまで成長し続けるのに対して,リラクサー強誘電体では相転移の前に成長を止めるのである. 上記の結果とは別に,試料探索の過程において,タンタル酸カリウム系結晶が界面による巨大誘電応答を示すことが見出された.これは半導体-電極界面におけるショットキー障壁が原因であり,誘電体物理におけるメゾスコピック系の物理学において新しい知見を得ることができた.
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