研究課題/領域番号 |
23740243
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
高橋 和敏 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 准教授 (30332183)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | グラフェン / 光電子分光 / レーザー / 放射光 |
研究概要 |
SiC単結晶の熱分解法により単原子層から10原子層程度までのグラフェンをn型およびp型のドープ特性を制御してエピタキシャルに作製し、現在までに直接的な知見が得られていない非占有電子状態のバンド構造と励起電子状態の超高速緩和ダイナミクスについて、シンクロトロン放射光による内殻・価電子帯光電子分光と組み合わせて得られる占有電子状態の知見と対応付けながら、フェムト秒レーザーによる2光子光電子分光法により直接的に知見を得ることが本研究の概要である。 グラファイト上鏡像準位のバンド分散と電子寿命の波数依存性として、本研究対象の参照試料でもあるグラファイト(HOPG)の角度分解多光子光電子分光実験から、鏡像準位のバンド分散と電子寿命の波数依存性を明らかにした。量子数n=1, 2,および3に属する鏡像準位が有効質量がほぼ1の自由電子的なバンド分散を持つことを実験的に示すとともに、励起光強度依存性から鏡像準位を介した多光子光電子放出過程の知見を得た。また、鏡像準位中へ励起される電子の寿命を波数分解で明らかにし、10fs程度の寿命を持ち、波数の2乗に比例する寿命幅の依存性があることを見いだした。(Phys. Rev. B. 85, 075325 (2012).) n型エピタキシャルグラフェンの2光子光電子分光として、SiCを熱分解して作製したエピタキシャルグラフェンの2光子光電子分光実験から、鏡像準位のエネルギ固有値がグラフェン層数に依存して系統的に変化することと、面内バンド分散の有効質量はほぼ1の自由電子的であることを明らかにした。また、時間分解2光子光電子分光実験からπ*状態に過渡的に励起された電子は0.3-0.5ps程度と数ps程度の2つの緩和成分で指数関数的に減少しており、遅い成分の寿命は、層数の減少やフェルミ準位への接近とともに長くなることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SiCを熱分解して作製したn型ドープされたエピタキシャルグラフェンの角度分解および時間分解2光子光電子分光実験が想定通りのスケジュールで実施できた。試料作製法においては、2枚のSi面を僅かな間隙で対向させてアニールすることにより、従来の報告にある手法よりも簡便かつ量産性が高い方法で高品質なグラフェン膜を得られることがわかった。これらの試料についての放射光による内殻・価電子状態、および2光子光電子分光実験から得られた知見について学会発表において公表できた。また、参照試料でもあるグラファイト(HOPG)の角度分解多光子光電子分光実験からの知見についてはPhysical Review Bにおいて発表できた。HOPGにおける鏡像準位のバンド分散関係の結果は、エピタキシャルグラフェン上の鏡像準位に対する結果と直接比較される重要なものである。一方で、サブ10フェムト秒の極超短パルス型チタンサファイアレーザーでの干渉2光子相関測定を試みたが、信号強度が弱く、現時点では技術的に困難であると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)p型ドープを制御した試料と、膜厚分布の少ない10原子層程度までの試料を精度良く作製する方法を確立し、それら試料についての放射光による内殻・価電子帯光電子分光測定、角度分解2光子光電子測定、時間分解2光子光電子測定から、占有・非占有状態のバンド分散と励起電子状態の超高速緩和ダイナミクスを明らかにする。(2)各実験結果を総括し、n型ドープからp型ドープへの過程と、2次元の単層グラフェンからバルクの単結晶グラファイトに至る過程での、グラフェンにおける非占有電子状態と超高速電子緩和ダイナミクスについての統一的理解を得る。(3)現行の2光子光電子分光法ではフォノン散乱過程を経ずにπ*電子状態を直接観測することや数fs秒領域のダイナミクスに関する知見を得ることは技術的に困難であった。これを克服するには新規な装置開発をすることが必要であるため本課題の範囲外であるが、実現できればグラフェンの電子物性の機構解明のみならず、多くの次世代電子デバイス材料やナノ物質系への研究展開などの波及効果は大きいため、準備的検討を開始したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
高額な備品についての支出は計画していない。非線形光学結晶や誘電体多層膜ミラーなどの光強度の短パルス光の照射により劣化する消耗品、研究を遂行する上で経常的に必要な、SiC単結晶基板、試料作製のための超高真空部品、アルカリ金属蒸着源、試薬などの消耗品について支出する。また、電子分光国際会議での成果発表に要する旅費、投稿論文校閲や投稿料、別刷のための費用などを計上する。
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