研究概要 |
1原子層から10原子層程度までのグラフェンをn型およびp型のドープ特性を制御して作製し、現在までに直接的な知見が得られていない非占有電子状態のバンド構造と励起電子状態の超高速緩和ダイナミクスについて、シンクロトロン放射光による内殻・価電子帯光電子分光と組み合わせて得られる占有電子状態の知見と対応付けながら、フェムト秒レーザーによる2光子光電子分光法により直接的に知見を得ることが本研究の概要である。 まず、本研究対象の参照試料でもあるグラファイト(HOPG)の角度分解多光子光電子分光実験から、鏡像準位のバンド分散と電子寿命の波数依存性を明らかにした。量子数n=1, 2,および3に属する鏡像準位が有効質量がほぼ1の自由電子的なバンド分散を持つことを実験的に示すとともに、励起光強度依存性から鏡像準位を介した多光子光電子放出過程の知見を得た。鏡像準位中の励起電子寿命を波数分解で明らかにし、10fs程度の寿命を持ち、波数の2乗に比例する寿命幅の依存性があることを見いだした。 SiC上に作製した1, 2, 3, および4層以上のエピタキシャルグラフェンの2光子光電子分光実験から、グラフェンに特有の偶奇2種の対称性を持つ鏡像準位のエネルギー固有値を決定し、面内バンド分散の有効質量はほぼ1であることを明らかにした。また、時間分解2光子光電子分光実験からπ*状態に過渡的に励起された電子は0.3-0.5ps程度と数ps程度の2つの緩和成分で指数関数的に減少しており、遅い成分の寿命は、層数の減少やフェルミ準位への接近とともに長くなることを見いだした。また、グラフェン上への2層Biの成長などによる磁気特性導入を念頭におき、Biナノ薄膜やAgナノ薄膜中の非占有量子化電子状態、BiAg表面合金の非占有ラシュバ状態、金属吸着半導体表面について角度分解2光子光電子実験により知見を得た。
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