研究課題/領域番号 |
23740244
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
山崎 篤志 甲南大学, 理工学部, 准教授 (50397775)
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キーワード | 光電子分光 / 強相関物質 / 5d電子系 / スピン軌道相互作用 / モット絶縁体 / スレーター絶縁体 |
研究概要 |
平成24年度には,研究計画に挙げている5d電子系強相関物質に関する研究に着手した.5d遷移金属酸化物における遷移金属5d電子は,3dおよび4d電子に比べてon-siteクーロンエネルギーが小さく,電子相関が弱いと考えられている.しかし,重元素特有の強いスピン軌道相互作用に起因した特異な現象・物性が期待される.本研究で注目したSr2IrO4は絶縁体であり,この絶縁性はIr5d電子軌道がスピン軌道相互作用により分裂して,幅の狭いバンドがクーロン相互作用によりさらに上部および下部ハバードバンドに分裂したことに起因すると考えられてきた.このSr2IrO4,Ba2IrO4およびSr2Ir1-xRhxO4に対して,ドイツシンクロトロンDESY-PetraIIIなどの放射光施設においてバルク敏感光電子分光実験を行った.また,極低エネルギー励起光電子分光実験によりSr2IrO4のフェルミ準位近傍での準粒子構造の温度変化を詳細に調べた.また,これらの実験結果について,Sr2IrO4とBa2IrO4の反強磁性相に対して動的平均場近似を行ったバンド計算から得られた電子構造との比較や光電子スペクトルの温度変化に対する振る舞いなどから,これらの物質が絶縁体化している起源として,従来から指摘されている電子相関によるモット転移という単純な機構ではなく,反強磁性相関が関連するスレーター絶縁体的な性格も含まれていることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,FeSeやTlFe2Se2などの鉄系超伝導体およびその母物質や,Sr2IrO4などスピン軌道相互作用が物性に支配的な物質など,3d,4d,5d電子系について,バルクでの準粒子構造を実験的に観測し,理論から予測されるスペクトルとの比較,議論を行ってきた.これらの進捗状況は,ほぼ計画通りであると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
TlFe2Se2やSr2IrO4,Sr2Ir1-xRhxO4などのフェルミ準位近傍での電子(または準粒子)構造の温度変化をより詳細にまたは新たに調べ,絶縁体機構についての確定的知見を得るために高分解能光電子分光実験を行っていく.また,角度分解光電子分光による分散関係の観測や,薄膜化した試料による電子構造の変化についても調べてゆく. 上記のことなどを含めて,これまでに得られた知見を包括的にまとめて普遍的なd電子系準粒子構造の抽出と異常物性との関連性の明確化,モデル化などをおこなってゆく.
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次年度の研究費の使用計画 |
光電子分光実験に必要な超高真空用消耗品(ガスケットなど)や光源に使用する希ガスの購入と放射光利用実験のための実験出張旅費,学会発表のための出張旅費などに充てる.
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