研究課題/領域番号 |
23740245
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
橘 信 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (40442727)
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キーワード | 酸化物強誘電体 / モルフォトロピック相境界 / 巨大圧電応答 / 熱物性 |
研究概要 |
本研究の目的は、酸化物強誘電体の熱物性を系統的に調べることにより、これらの物質で見られる特異な強誘電特性や圧電効果の理解を深めることである。特に、リラクサーと強誘電体の固溶体で見つかっているモルフォトロピック相境界や巨大な圧電応答といった振る舞いは、メゾスコピックスケールのドメインや相分離現象に起因しており、従来の研究手法では全体像を捉えることは難しい。一方、これらの不均一性は熱物性において特異なガラス的な振る舞いとして現れることから、系統的な測定を行うことにより、これまでの研究とは異なった視点からの知見が得られると考えている。今年度の成果として、主に以下の2点が挙げられる。 1)ペロブスカイト型K1-xLixTaO3の熱伝導率と比熱の解析。KTaO3は低温でソフトモードの振動数が低下するが、絶対零度まで有限の値に留まる量子常誘電体である。KTaO3にLiをドープすることによって誘電率に周波数分散が現れるなどのリラクサー的な振る舞いを示すことが知られているが、詳細については不明な点が多い。特に、鉛系の典型的なリラクサーとどこまで同じ枠組みで理解できるかが問題点として残っている。そこで、本研究ではLiドープ量の異なるK1-xLixTaO3の良質な単結晶を育成し、熱伝導率と比熱の測定を行った。特に本年度は熱伝導率の解析を進め、ドープ量による平均自由行程の変化を求めることに成功した。これらの結果から、K1-xLixTaO3は鉛系リラクサーと異なり、メゾスコピックの不均一構造を有さないことが分かった。 2)層状ペロブスカイト型構造を有するBi系強誘電体について新しい結晶の育成に成功した。これまでに粉末X線回折による構造の決定、化学分析による組成の決定、偏向顕微鏡によるドメイン構造の観察、および誘電率の測定を行っており、今後は分極の測定や結晶育成条件の最適化を進めてい区予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、主に(1)巨大な圧電効果を示す強誘電固溶体の系統的な熱測定から、メゾスコピックドメインと巨大圧電特性の関係を明らかにする、と(2)新規ペロブスカイト型強誘電体の固溶体を探索する、という2つである。 (1)については、これまでに鉛系の典型的なリラクサーとチタン酸鉛(PbTiO3)間の固溶体について、数多くの良質な単結晶を育成し、比熱と熱伝導率の測定や解釈を行った。また、ペロブスカイト型K1-xLixTaO3についても同様に単結晶育成と熱物性の測定を行った。数多くの実験から非常に面白い結果が得られたが、今後はこれらを統一的に説明し、メゾスコピックドメインと巨大圧電特性の関係についての真に新しい理解が得られるような解釈が必要だと考えている。 (2)については、これまでにフラックス法による単結晶育成と超高圧合成による探索から、新規ペロブスカイト型強誘電体の固溶体を調べてきた。これまでに得られた主な成果としては、フラックス法により層状ペロブスカイト型構造を有する新しい単結晶が得られたことである。今後は、高圧合成などをさらに駆使して、結晶構造が異なる強誘電体間の固溶体について系統的に調べ、相図を作成する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究のもう一つの課題である新たなモルフォトロピック相境界の探索を進める。特に、結晶構造が異なる強誘電体間の固溶体について系統的に調べ、相図を作成する。そして相境界付近の誘電率や分極、そして圧電特性を詳細に調べることにより巨大な圧電効果の探索を行う。また、層状ペロブスカイト型構造についてもモルフォトロピック相境界が存在するかを調べ、巨大な圧電効果と次元性の関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究ではフラックス法による単結晶の育成を重点的に進めるため、結晶育成に必要な白金るつぼの改鋳費用と試薬費が必要である。また、研究成果を発表するために学会参加費や論文の出版にかかわる費用が必要である。
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