本研究の目的は、主に遷移金属酸化物でできた強誘電体の熱的物性や結晶構造を系統的に調べることにより、これらの物質で見られる特異な強誘電物性や圧電性質の理解を深めることである。特に、リラクサー強誘電体の不均一現象は比熱や熱伝導率といった熱物性においてガラス的な振る舞いとして現れるため、組成を変化させたときの熱物性を系統的に測定することにより、これまでの研究手法とは異なった視点から不均一現象の知見が得られると考えている。平成25年度の成果として、主に以下の3点が挙げられる。 1)特異なリラクサー強誘電体として知られるパイロクロア型のCd2Nb2O7について単結晶X線散乱実験を行い、強弾性相転移、強誘電相転移、およびリラクサー的な振る舞いに伴う微小な結晶構造の変化を明らかにした。また、強弾性相転移で現れる超格子反射の反射強度についてその温度変化を正確に求め、オーダーパラメーターは平均場的な振る舞いを示すことを明らかにした。 2)ペロブスカイト型K1-xLixTaO3とKTa1-xNbxO3の良質な単結晶を育成し、熱伝導率と比熱の測定を行った。これらの結果を解析することにより、強誘電ソフトモードが低温の熱物性に与える影響を明らかにすることができた。また、ドープ量によるソフトモードや平均自由行程の変化を求めることに成功した。これらの結果から、K1-xLixTaO3やKTa1-xNbxO3は鉛系リラクサーと異なり、メゾスコピックの不均一構造を有さないことが分かった。 3)層状ペロブスカイト型構造を有するBi系強誘電体について結晶を育成し、熱伝導率と比熱の測定を行った。これらの結果の解析を行うことにより、フォノンの散乱は結晶構造に大きく依存することが分かった。また、ペロブスカイト型強誘電体の熱物性と比較することにより、層状ペロブスカイト型Bi系強誘電体の熱物性の特異性を明らかにした。
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