研究課題
本研究は、スピン・軌道相互作用の強い磁性体として近年注目を集めているイリジウム酸化物を測定対象として、運動量分解能を持った非弾性磁気散乱の観測が放射光を用いた共鳴非弾性X線散乱で可能であることを示し、その実験手法として確立することを目的とした。そのためにSPring-8のBL11XUに設置した非弾性散乱分光器に高エネルギー分解能用のモノクロメータとアナライザーを導入し、2011年度には分解能100meVを達成した。2012年度はモノクロメータをチャンネルカット型Si(844)結晶に交換することで分解能を70meVにまで向上させることに成功した。さらに、検出器の位置分解能がエネルギー分解能に与える影響を改善するために、従来の検出器(位置分解能0.172mm)よりも高い0.075mmの分解能を持った検出器の試験を行い、今後の利用の目途が立った。これらの装置を利用して、2013年度は、二重層ペロブスカイト構造のSr3Ir2O7に加えて、磁気的なフラストレーション効果が期待できるハイパーカゴメ構造のNa4Ir3O8の測定を行った。Sr3Ir2O7ではマグノンと考えられる分散を持った励起が明瞭に観測された。昨年度測定した単層ペロブスカイト構造のSr2IrO4と同様にネール温度よりも高温の400Kまでマグノンのエネルギーに幅の広がったスペクトル強度が残存し、高い二次元性を示唆する結果を得た。また、Sr3Ir2O7の励起には二重層内でのc軸方向の相互作用によって100meV程度の大きなギャップが開いていることが明らかとなった。一方、Na4Ir3O8では測定分解の範囲では明瞭な磁気励起は観測されず、フラストレーションから期待されるスピン液体状態とは矛盾しない結果であった。以上の研究成果から、共鳴非弾性X線散乱を用いた磁気励起研究の有用性を明確に示すことができた。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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