研究課題/領域番号 |
23740257
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鴻池 貴子 東京大学, 物性研究所, 助教 (70447316)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ディラック電子 / 有機導体 / 熱起電力 |
研究概要 |
本研究ではグラフェン同様の特異な線形分散によるディラック電子系と通常の電子系の両方をあわせ持つことが最近分かった分子性導体theta-(BEDT-TTF)2I3を対象として圧力下熱輸送現象の測定を行い,多バンド系でのディラック電子に焦点をあてた研究を行う.本研究は多くのバラエティーに富んだ物性の原因になる多バンドの効果が,グラフェン研究からすでに明らかになった極めて特異なディラック電子系にどのような影響を及ぼすのかを実験的に解明しようとするもので,まだ確立していない分子性導体の圧力下熱輸送測定技術開発への挑戦でもある.多バンドの効果を理解するためには,まずはディラック電子系のみを有することが知られているalpha-(BEDT-TTF)2I3の熱起電力の振る舞いをおさえておく必要がある.初年度であるH23年度の研究により,まず低周波ac法による常圧・圧力下での熱起電力測定系を立ち上げ,圧力下でのalpha-(BEDT-TTF)2I3の熱起電力測定に成功した.これにより,ディラック電子系が形成される高圧下で,高温ではバンド構造から予想されているファンホーブ特異点を反映すると考えられるブロードなピーク構造や,ホール効果の測定と対応するような熱起電力の符号反転が観測された.また,磁場下での測定からはディラック電子系特有のランダウ準位の形成,とくにディラック点に形成されるN=0のランダウレベル(ゼロモード)の存在とそのスピン分離を示唆する異常な振る舞いが観測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度であるH23年度の研究では,まず低周波ac法による常圧・圧力下での熱起電力測定系を立ち上げることができた.また,本研究の最終目的である多バンドの効果を理解するために必要不可欠な,ディラック電子系のみからなるalpha-(BEDT-TTF)2I3の圧力下熱起電力の測定を行い,ディラック電子系特有の振る舞いを観測することができた.以上のことから初年度の研究としてはおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に立ち上げた圧力下熱起電力測定系をさらに発展させてより高感度な測定を目指すとともに,alpha-(BEDT-TTF)2I3の圧力下熱起電力の測定結果の解析を進める.これによりディラック電子系の熱輸送現象,磁場下での振舞いについて理解を深める.またディラック電子系と通常のバンドを併せ持つことが知られているtheta-(BEDT-TTF)2I3の単結晶作製に挑戦し,この系での圧力下熱起電力測定を行う.得られたデータをalpha-(BEDT-TTF)2I3の測定結果と比較し,多バンドの効果についての議論を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に熱起電力測定系の立ち上げた際,当初予定していた装置(方形波,sine波の出力が可能な電流源)を購入することなく,ロックインアンプを使用することで測定可能なことが分かった.本年度はこの分の物品費を他の装置の購入にあて,より効率的で高感度な測定を行えるよう改良する.また,結晶育成が困難なことが知られているtheta-(BEDT-TTF)2I3の単結晶成長に挑戦する.theta型単結晶の育成方法はまだ十分に確立されていないため,本年度はさまざまな試薬を購入し,最適な育成条件を探る.また,より効率的に測定準備を進めるため,現在使用しているものと同型の圧力セルを作製する.有機導体で実現されるディラック電子系に関しては,現在も理論・実験の両方面からさまざまな検証が続いており,これらの情報収集や各研究グループとのディスカッションを行うため,物理学会や関連する国際会議に出席し,発表・議論を行う.
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