研究課題/領域番号 |
23740258
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
服部 一匡 東京大学, 物性研究所, 助教 (30456199)
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キーワード | 超伝導 / マグノン |
研究概要 |
本年度の成果の一つとして、まず前年度の研究成果である「四面体配置の近藤問題」の論文を投稿し8月に論文を出版することができた。それに平行して準備を行った研究主題は、当初の計画では平成26年度の計画であったウラン系化合物の超伝導についてである。この理由として、世界的にウラン系超伝導の研究が盛んになってきており、26年度まで待っている時間がないと判断したためである。 我々が本年度に解析したのはURhGeという強磁性と超伝導が共存した非常に珍しい超伝導体である。この物質は零磁場において~10Kで強磁性、0.3Kで超伝導転移を示す。我々が注目したのは、その磁場依存性である。磁場を磁価の困難軸にかけると、一旦2T程度の磁場で超伝導は破壊されるが、8Tまでかけると再び超伝導が現れる。12T付近で超伝導転移温度は0.4K程度まで増大しその後超伝導は消失する。この高磁場の超伝導機構として、横飽和磁場近傍で発現する「ソフトマグノン媒介の超伝導」を提案した。我々の理論は超伝導転移温度の磁場依存性を定性的に再現することができ、また超伝導クーパー対のスピン成分の磁場依存性についての知見を得ることが出来た。これらは今後の実験で検証されることを期待している。この内容に関する論文は2月初旬にPhysical Review Bに出版され、3月の日本物理学会においても発表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の成果はすでに2月に論文が出版されており、昨年度の少しの遅れは取り戻せたと感じている。研究計画では平成24年度のものは異なる主題であったが、本年度は分野の現状を考慮し前倒しで平成26年度に予定していた研究を行った。当初はもう少し数値計算的な研究を考えていたが、物理的な機構の提案に重点をおいた成果になっており、実験分野の研究者にとっても分かりやすいものになった。それらのことから、おおむね良好に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はフェルミ面のトポロジカル転移についての理論および数値計算をすることを考えている。これは当初の計画にある通りである。平成24年度に行った研究から派生した主題として、強磁性の量子臨界点近傍でのリフシッツ転移を伴う一次転移の模型も考案、解析したいと考えている。この主題とともに元々の計画にあった局在電子が2つ存在する場合のアンダーソン格子模型を動的平均場理論を用いて解析し、そのフェルミ面転移の近傍の臨界性を調べることが一番の目的である。 前者は古典スピンと伝導電子が結合した近藤格子模型をモンテカルロ法で数値的に厳密に解いてしまう、という計画である。アルゴリズム等はすでに開発しており、困難があるとすると、興味深い現象がおこるパラメータの同定に時間がかかる点である。その為に、数値計算アルゴリズムの高速化等が必要になってくると思われる。 後者に関しては、動的平均場の不純物解法として数値繰り込み群を用いて絶対零度における一粒子スペクトルを詳細に解析する予定である。絶対零度での転移線状では電子の有効質量が無限大に発散することが期待され、そのことを重点的に調べる予定である。 これらの計画が上手く軌道に乗らない場合の計画として、最近注目されている同じく局在電子が2ついるPr1ー2ー20化合物における四極子秩序の解析を考えている。これらの物質ではPr原子がダイアモンド構造をとり、その四極子自由度が反強的に長距離秩序を起こす。このときに興味深いのはその相では系の反転対称性も破れるということである。それらの相の解析や、観測されている輸送現象についての以上をこの非磁性四極子秩序の観点から議論することを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主に計算機として用いるパソコンと作業用のノートパソコンの購入費として使用する予定である。これらに加え論文の投稿費にも使用することを考えている。
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