研究課題/領域番号 |
23740260
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡 隆史 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50421847)
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キーワード | 強相関電子系 / 非平衡 / 統計力学 / レーザー物理 / 動的平均場理論 |
研究概要 |
物性物理に現れる様々な非平衡相転移現象について新現象の発見と計算手法の開発を軸として研究を行っている。申請者の提案した光誘起トポロジカル相転移が世界的にも広く認識され、例えば光学系を用いた実現がNature誌に掲載された(Rechtsman et al. Nature, 496, 196 (2013))。 本年度は(i)モット絶縁体の光励起現象 (Oka PRB 2012), (ii)高温超伝導体の光誘起現象(投稿準備中)を行い、同時に、(1)量子磁性体の光誘起トポロジカル相転移(Takayoshi et al. arXiv:2013)、(2)多層型高温超伝導体の転移温度(Nishiguchi et al. arXiv:2012)、(3)乱れた系のレーザー光を用いた電気伝導の制御(Kitagawa et al. PRB 2012)についてまとめた。 光誘起電気伝導の研究:強力なレーザーを照射した電子系の電気伝導について調べた。系の電気伝導を正確に決めるためには電極との結合による緩和機構を考えた上で、大規模な系で計算を行う必要がある。この目的を達成するため「Floquet+Landauerの方法」という手法を開発し、グラフェンの光誘起伝導に応用した。研究成果はKitagawa et al. Ann. Phys. (2012)として論文にまとめた。 強相関系の非平衡現象:レーザーを照射した相関電子系に現れる非平衡電子状態の解析を行った。結果はOka PRB 86, 075148 (2012)にまとめた。 量子スピン系の光誘起相転移:円偏向レーザーを利用することで量子スピン系のスピン制御が可能であることを示し、それによってトポロジカル相を破壊できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第二年度の目標は電場をかけたモット絶縁体の非平衡状態の研究を行うことにあった。Phys. Rev.B誌で掲載された論文では、この目標にそった研究が行えた。具体的にはモット絶縁体に量子効果によって生成されるダブロンホロン分布の計算に世界で初めて成功した。重要な結論としてレーザー光の光子エネルギーによって注入される光キャリアの様子が定性的にも変化する。現在、テラヘルツ波を使った実験が計画されている。 モット絶縁体のもう一つの側面は磁性である。量子スピン系のレーザー照射の影響についても、磁性体の光誘起相転移現象というこれまで考えられてこなかった現象を提案することができた。これは従来にはなかった、スピン系のレーザー物理という新しい分野を開きうるものであり、現在、複数の実験グループに働きかけ、実現を目指している。 さらに論文投稿はまだであるが、2012年度の最大の成果はKeldyshグリーン関数法を用いた高温超伝導体の非平衡状態の解析に成功したことにある。この手法を用いることで今後光誘起相転移現象に関する新しい知見が得られることが期待されている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年の研究は非平衡動的平均場理論と平成24年度に作成した実時間揺らぎ交換近似の二つを軸に研究を進める。 1.高温超伝導体の非平衡相転移:銅酸化物高温超伝導体にレーザーを照射すると準粒子が光注入されるが、その後のダイナミクスに対する理論的な理解は得られていない。この問題に対して時間依存揺らぎ交換似(FLEX)を用いて計算を行い、スピン揺らぎの時間ダイナミクスと超伝導秩序の関係について調べる。結果を早急に論文にまとめると同時に、学会等で発表する。 2.非平衡動的平均場理論:クラスター化により、銅酸化物や鉄系超伝導体などの運動量依存性のあるシステムのモット転移を解析する。 今年度はMIT、ハーバード大学、Aalto大学の共同研究者とともに上記の研究課題に取り組んでいく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の予算規模は10万円と当初予定より縮小されているが、研究は前年度の計算プログラムを用いて物性研究所と京都大学の大型計算機を用いて行う予定である。この計算は岡が実行し、また、大型計算機の費用は新たに必要ない。計算結果の解析は平成23年度に購入したノートパソコンを使用して行い、論文として研究結果を発表する。計画全体には大きな変更はなく、当初の予定通りの研究成果をあげられると考えている。
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