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2011 年度 実施状況報告書

多変数変分モンテカルロ法を用いた鉄系超伝導体の超伝導機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 23740261
研究機関東京大学

研究代表者

三澤 貴宏  東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10582687)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2013-03-31
キーワード鉄系超伝導体 / 第一原理計算 / 強相関電子系 / 高温超伝導
研究概要

最近発見され国内外で爆発的な研究が行われている鉄系超伝導体の第一原理有効模型の高精度解析を行うために、多変数変分モンテカルロ法のコードの並列化及び単体性能の向上をおこなった。並列化に関してはボトルネックとなっていた対角化の部分を大規模並列に対応したパッケージに用いることで並列化効率の大幅な改善を行った。単体性能に関しては森田悟史氏(東大工)の協力をえて、数十倍にまで加速することに成功した。このコードを用いて鉄系超伝導体の典型物質(LaFePO,LaFeAsO,BaFe2As2,FeTe)に対して、有効模型の網羅的な解析を行った。その結果、計算で得られた磁気秩序モーメントの大きさが実験値と非常によく一致することを見出した。また、鉄系超伝導体で観測されている磁気秩序モーメントの大きな物質依存性が相互作用の大きさで統一的に説明できることを第一原理計算をもとにした微視的な計算から明らかにした。さらに、有効模型の電子濃度を系統的に変化させた計算をおこない、電子状態の電子濃度依存性を明らかにした。鉄系超伝導体の母物質の電子配置はd6(5 軌道に6 電子入った状態) であるが、この電子配置から電子を抜いていく(ホールドーピング)とともに、磁気秩序モーメントが成長して、電子状態がインコヒーレントになることが分かった。さらに、d5(5軌道に5電子入った状態)まで磁気秩序モーメントは大きくなり、d5ではモット絶縁体が発現することを明らかにした。この結果は鉄系超伝導体の母物質が実はd5でのモット絶縁体に起因した巨大な反強磁性ドームのふもとにいることを示している。モット絶縁体の大きな影響をうけている点は高温超伝導が発現している銅酸化物と類似しているが、鉄系超伝導体の場合はドーピング濃度にして100%以上に及んでいる。このモット絶縁体の影響の巨大さが鉄系超伝導体の大きな特徴であることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

申請書では平成23年度の研究計画として(1)大規模並列化に対応した多変数変分モンテカルロ法の実装(2)LaFeAsOの有効模型のドーピング・相互作用相図の作成 (3)鉄系超伝導体の異なるファミリーの有効模型の計算の3つをあげたが、研究実績の概要で述べたようにこの3つの課題は23年度中に全て実行した。さらに(2)の結果として鉄系超伝導体が示す高温超伝導を含む異常な電子状態の背後にモット絶縁体が存在しており、モット絶縁体の巨大な近接効果の観点から鉄系超伝導体の物性が統一的に理解できることを示した。これは、鉄系超伝導体の研究に新しい視点を付け加えるだけでなく、新しい高温超伝導体の設計指針を示すものである。この結果は原著論文として既にまとめており、Pysical Review Lettersに査読の結果、受理されている。 以上のように、予定していた課題を全て遂行しただけでなく、予想外の新しい結果を得ており、原著論文としてまとめ終わっていることから、当初の計画以上に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

今までの研究で得た結果をもとに超伝導の発現可能性を網羅的に調べる予定である。電子濃度ー相互作用を制御した相図のどの領域で高温超伝導が発現しやすいかを大規模計算をもとに明らかにする。その結果として、超伝導の転移温度を制御しているパラメーターは何かを明らかにする予定である。その知見をもとに、相互作用の大きさとバンド構造の制御を行い超伝導の転移温度をより高くするためにはどうすればいいのかの具体的な指針をあたえることを目指す。また、電子濃度・相互作用を変化させた相図のなかで、どのような対称性をもった超伝導が最も安定になるかを決定する。鉄系超伝導体で発現している超伝導の対称性に関してはいくつも異なる理論的提案があるが、それらの先行研究との比較・検討を行い、空間・量子ゆらぎが超伝導の対称性にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。

次年度の研究費の使用計画

計算結果の整理、結果の取りまとめを行うために、研究費を用いていくつかのソフトウェアを購入してデータの整理作業を効率的に実行する予定である。また得られた研究結果を国内外の研究会、国際会議での発表する予定である。その参加費用として研究費を使用する予定である。また、学術雑誌に原著論文として発表するための論文投稿料としても研究費を使用する予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2012 2011

すべて 学会発表 (9件)

  • [学会発表] 鉄砒素系超伝導体におけるドーピングによる電子状態の変化2012

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      日本物理学会 第67回年次大会
    • 発表場所
      関西学院大学
    • 年月日
      2012 – 327
  • [学会発表] 多変数変分モンテカルロ法の応用 -鉄系超伝導体-2012

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      電子相関に対する計算科学手法とその応用
    • 発表場所
      東京大学
    • 年月日
      2012 – 127
  • [学会発表] 次元縮約第一原理ダウンフォールディング法を用いて導出された鉄砒素系超伝導体の有効模型の数値解析 (2)2011

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      日本物理学会20111年 秋季大会
    • 発表場所
      富山大学五福キャンパス
    • 年月日
      2011 – 923
  • [学会発表] Variational Monte Carlo study of strongly correlated electron systems2011

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      Japan-Swiss Workshop, New Electronic Properties through Structure and Correlation(招待講演)
    • 発表場所
      Swiss ETH
    • 年月日
      2011 – 917
  • [学会発表] 強相関電子系に対する第一原理有効模型の解析2011

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      CMSI若手技術交流会 (招待講演)
    • 発表場所
      理化学研究所計算科学研究機構(神戸)
    • 年月日
      2011 – 78
  • [学会発表] 鉄系超伝導体の第一原理有効模型の解析 -磁気秩序モーメントの物質依存性の解明-2011

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      鉄系高温超伝導の物理
    • 発表場所
      京都大学基礎物理学研究所
    • 年月日
      2011 – 617
  • [学会発表] Ab initio low-energy models in iron-based supeconductors studied by variational Monte Carlo method: Role of electron correlation and origin of small magnetic ordered moment in LaFeAsO2011

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      Villa Conference on Iron Pnictide Superconductors(招待講演)
    • 発表場所
      Las Vegas, USA
    • 年月日
      2011 – 423
  • [学会発表] Electronic correlations around commensurate filling other than half-filling - 鉄系超伝導体、近藤格子系を例にして-2011

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      強相関電子系理論の最前線 - 若手によるオープン・イノベーション -(招待講演)
    • 発表場所
      紀伊勝浦
    • 年月日
      2011 – 1223
  • [学会発表] 有機導体における電子相関効果 -モット転移とその臨界性 -2011

    • 著者名/発表者名
      三澤 貴宏
    • 学会等名
      有機固体若手の会 冬の学校2011(招待講演)
    • 発表場所
      北海道 定山溪
    • 年月日
      2011 – 1216

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公開日: 2013-07-10  

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