研究課題/領域番号 |
23740262
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小野 俊雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40332639)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 物性実験 / 磁性 / フラストレーション系 / 中性子散乱 |
研究概要 |
本研究は,基底状態の異なる2つの籠目格子反強磁性体の混晶を作成することにより,基底状態とそのスピンダイナミクスの制御を目的としたものである.2つの籠目格子反強磁性体は,それぞれA2Cu3SnF12 (A = Rb & Cs) で,A=Rbの場合についてはPinwheel VBS状態と呼ばれる非磁性な基底状態をり,磁気的な状態との間に有限なエネルギーギャップがあることが分かっている.いっぽう,もう一つのA=CsはT=20Kで反強磁性転移をして磁気的な基底状態になる.23年度は,まずこのA=Csについて大型の単結晶を育成し,その基底状態と磁気励起を詳細に調べ,現在その結果をまとめているところである.A=RbとCsの混晶については,割合を変化させた試料をいくつか作成し,そのマクロ磁化を評価してきた.その結果,ピュアなRb2Cu3SnF12のRbをCsで置換することにより,磁気的な状態へのエネルギーギャップが系統的に減少することが分かった.また,代表的な混合比の混晶について,大型の単結晶を得ることにも成功した.当初の計画では,2年目より中性子散乱の実験を開始する予定だったが,試料の準備が順調に進んだため,計画を前倒して中性子散乱の実験を行い,予備的な結果を得ることが出来た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究計画の立案時には,試料作成に困難が伴うことが予想されたため研究開始年度全体を試料作成にあてるつもりであったが,予想以上に試料作成が順調に進んだため,2年目に行う予定だった中性子散乱の実験を前倒しで行うことが出来た.この中性子散乱の実験では,混晶系での励起ギャップと分散関係の変化を直接とらえることが目的である.昨年度は東日本大震災の影響で,使用を予定していた日本原子力機構の研究炉を使用することができず,よりビームの弱い海外の実験施設を使用して実験を行った.そのため,弱い磁気励起を観測することはできたものの,詳細な分散関係を調べる等,当初の計画で考えていた目標に到達することは,この時点でできなかった.試料作成の点では,計画以上に研究を進めることが出来たが,中性子散乱の実験は計画よりもやや困難であることが判明したため,今後の計画を微修正する必要が出てきた.そのため上記のように「順調」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った中性子散乱の実験では,充分大きい単結晶を用いたにもかかわらず,微弱な磁気散乱しか得ることができなかった.そのため,より中性子ビーム強度の強い原子力機構の装置を使用を予定している.一方で,昨年度使用した試料は置換量が全体の1/3と大きな試料であるため,磁気励起のシグナルがエネルギー・運動量空間で広がって観測しづらくなっていることが考えられる.そのため,置換量のより小さくランダムネスの効果が小さい試料について磁気励起を調べるために試料を準備しているところである.置換量の異なる数種の試料について分散関係の変化をとらえることで,量子相転移点近傍の振る舞いを説明できると考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は,所属機関の移動があったため,試料作成環境を再立ち上げすることに専念した.今年度も試料作成を,主に低置換量の試料作成を中心に行なう.その試料作成の試薬・および白金容器に研究費を使用する予定である.また,中間濃度では非磁性な基底状態と磁気的な励起状態との間のエネルギーギャップが小さくなっていると考えられるため,現有の超伝導マグネットと組み合わせて使用する磁化率計を作成する予定である.そのための測定機器の購入費・クライオスタット材料費として使用する予定である.
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