研究課題/領域番号 |
23740263
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
町田 洋 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40514740)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 量子臨界現象 / 重い電子系 / 熱電係数 |
研究概要 |
磁気秩序が絶対零度まで抑えられた点(量子臨界点)の近傍では、異方的超伝導や異常な金属状態などの興味深い物理現象が数多く見出されている。これらの興味深い現象の発現機構は未解明な点が多く、その理解のためには背後にある量子臨界現象を深く知る必要がある。これまで量子臨界現象は電気抵抗率や比熱、磁化率など限られた物理量でのみ調べられてきたが、それらの振る舞いは物質によって様々であり統一的な理解が得られていない。本課題では、これらの物理量と相補的な役割を果たす熱電係数をプローブとして、より多角的に量子臨界現象を研究し、その発現機構の解明を目指している。本年度は、重い電子物質におけるメタ磁性に焦点を絞って研究を行った。メタ磁性は、磁化がある磁場で非線形に増大する現象を指す。メタ磁性転移点近傍では、量子臨界点近傍でみられる異常な金属状態が観測されるため量子臨界現象との関連としても興味深い。実際、メタ磁性の起源の一つとして考えられている絶対零度でのフェルミ面のトポロジー転移が、有限温度では異常な振る舞いを生み出すことが理論的に提唱されている。本課題では、重い電子物質のYbCo2Zn20を研究対象とした。この物質は非常に弱い磁場でメタ磁性を示し、その近傍ではやはり異常な金属状態を示すことが明らかにされている。希釈冷凍機を用いた極低温までのゼーベック、ネルンスト係数測定から、遍歴した準粒子の低エネルギー励起に敏感なこの両物理量がメタ磁性転移点で急激に抑制されることが分かった。この結果は、Ce元素を含む重い電子系メタ磁性物質の代表例であるCeRu2Si2の転移点近傍での振る舞いと非常に対称的であり、比熱や電気抵抗においては一見同じような振る舞いを示す両物質のメタ磁性の発現機構に違いがあることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重い電子系物質における量子臨界現象を熱電係数を通して明らかにすべく研究を行った。特に、本年度は量子臨界的な挙動を生み出す起源として注目されているフェルミ面のトポロジー転移に関連して、同様の機構が働いていることが理論的に示唆されている重い電子系におけるメタ磁性に焦点を当てて研究を行った。Yb元素を含む新規の重い電子物質であるYbCo2Zn20に対する熱電係数を用いたメタ磁性の研究から、メタ磁性転移磁場以下において巨大なゼーベック係数を見出し、重い準粒子状態が形成されていることを決定付けた。また、メタ磁性転移を境に熱電係数が劇的に変化することを見出し、系の電子状態が変化していることを明らかにした。このように、熱電係数を用いた新たな切り口から重い電子系における量子臨界現象とメタ磁性の起源に迫りつつあり、研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
重い電子系物質におけるメタ磁性を研究する上で、熱電係数が非常に強力なプローブであることが明らかになりつつあるため、今後もこの方針で強力に研究を推し進めていく。特に圧力下において、メタ磁性がゼロ磁場まで抑制されることにより、新たな量子臨界点が創出されることが示唆されているため、圧力下での熱電係数測定によりメタ磁性と量子臨界現象の包括的な理解が期待される。本年度は上記の重い電子系メタ磁性物質における熱電係数の研究が予想外の進展をみせたため、予定していた圧力セルの購入および圧力下への拡張を次年度へ計画変更をした。次年度に使用する予定の研究費が生じたのはこのためである。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の一部は、重い電子系物質の低温での熱電係数測定のために必要な液体ヘリウムの購入に充てる。一般的に、極低温での熱測定は試料や温度計などの緩和時間が長くなるため、測定に非常に長い時間を要しこれに伴い多くの液体ヘリウムが必要となる。また、共同研究者と議論を行うことで、実験から得られた結果をより深く理解することを目的とし、国内外の会議等に参加する。研究費の一部は会議に参加のための旅費にも充てる。
|