磁気秩序が絶対零度まで抑えられた点(量子臨界点)の近傍における異常な金属状態の解明を目指し、遍歴電子の低エネルギー励起に敏感なプローブであるゼーベック係数を用いて研究を行った。研究対象として、Yb元素を含む量子臨界物質の代表例であるベータ型のYbAlB4とYbRh2Si2を選んだ。これらの物質では比熱や電気抵抗率、磁化率の温度依存性の臨界指数が従来のスピン揺らぎの理論では説明できないことから、非従来型の量子臨界現象を示す物質として注目を集めている。理論的には臨界指数に共通点が多いことから同じ枠組みで統一的に臨界現象を理解しようと試みが為されていた。 希釈冷凍機を用いた極低温までのゼーベック係数測定から、両物質に非常に際立った違いが存在することが分かった。ベータ型YbAlB4では温度降下とともにゼーベック係数の絶対値S/Tは増大し続けるのに対し、YbRh2Si2では低温に向かって急激に減少する。これらの違いは、量子臨界点のごく近傍でのみ現れることから両物質の量子臨界性の違いを示していると考えられる。この結果はこれまで比熱測定などの結果から同じ量子臨界クラスに分類されてきた両物質が、まったく異なる機構、量子臨界揺らぎによって臨界現象を引き起こしている可能性を示した点で意義深いと言える。今後、本研究でその有効性が示された極低温でのゼーベック係数測定を用いて、さらに多くの量子臨界物質を対象に研究を行うことで系統的な量子臨界クラスの分類を行っていきたい。
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