本研究課題『1次元細孔中の液体3Heを用いた朝永‐ラッティンジャー(TL)液体の研究』の目的は,細孔中3Heの比熱・帯磁率を測定,バルクの液体3Heの振る舞いと比較することにより,1次元3Heの性質を明らかにすることである.2年目の平成24年度に,ボーズ系である1次元細孔中液体4Heの超流動応答において,TL液体との関連を示唆する重要な実験結果が得られた.平成25年度は実験結果の解析をさらに進めた.その結果,超流動応答の周波数依存がTL液体に基づいた理論的予想と合うことを明らかにし,Physical Review B誌において発表した.1次元フェルミ系の性質を明らかにする上で,異なる統計に従うボーズ系の振る舞いは,比較対象として非常に重要である.そこで,1次元細孔中4Heの超流動応答の研究を,より多様な条件下(不純物として微量の3Heを導入した系や,飽和蒸気圧以下の低圧領域における薄膜状態)において進め,その結果は日本物理学会で発表した. 一方,フェルミ系である3Heに関しては,孔径2.8nmの試料を用いてNMR測定系を完成させ,測定を開始した.1次元細孔中では,3Heの導入量を増やすにつれて,3Heはまず固層を形成し,その内側に液層を形成する.固層においては、最低温度(~50mK)までキュリー則に従う磁化が観測された.3Heの量をさらに増やしていくと,約100mKより低温で,磁化がキュリー則よりも小さい値に収束するような振る舞いが観測された.この原因として,液層の3Heが縮退を始め,量子的な状態が出現していることが考えられる.得られた実験結果は,今後1次元3Heの性質を探求していくうえで重要な足がかりとなることが期待される.
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