研究課題/領域番号 |
23740266
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡崎 竜二 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50599602)
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キーワード | モット絶縁体 / 金属絶縁体転移 / 非平衡電子状態 / 電場効果 |
研究概要 |
本研究の目的は、伝導電子間のクーロン斥力の大きいモット絶縁体に、外場として電場を印加し金属化した非平衡な状態での熱力学量を測定することで、非平衡下の電子状態を直接研究することのできる新しい物性評価手法を確立することです。特にそのような電場下における非平衡電子状態の研究を行う上で、ジュール熱による温度上昇効果の寄与を厳密に取り除くことが必要不可欠です。平成24年度は、電流を印加して試料が発熱した状態における温度分布をサーモグラフィで計測し、電流と温度差を異なる周波数で交流印加するという二成分交流法を開発することで、電場下での電気抵抗率およびゼーベック係数の同時計測に成功しました。この手法をモット絶縁体Ca2RuO4に適応したところ、電気抵抗率は前年度の結果を再現し、一方ゼーベック係数は電流によって増加する振る舞いを観測しました。無電流下でのゼーベック係数は温度上昇によって減少するため、この結果は明らかな非熱効果であり、輸送係数に対する本質的な電場効果を捉えたものです。さらに本年度は電場下での格子定数計測を放射光共同利用施設にて行いました。その結果、等温環境下において、電流によってCa2RuO4の格子定数が変化することを発見しました。得られた圧電定数は典型的なピエゾ物質であるPZTの1000倍ほどの値であり、非常に巨大な電歪効果です。この結果は、電流によってまずエネルギーギャップが減少し、この系の強い電子格子相互作用を通して格子系が変化したと考えられます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの非線形伝導測定および電場下での物性評価における最大の問題点は、電場印加による試料の温度上昇効果をどのように取り扱うかという点にありました。 今年度は、前年度開発した非接触での温度評価法にさらに加えて、サーモグラフィによる電気抵抗・ゼーベック係数同時計測手法の開発に成功しました。得られた電気抵抗の非線形性の結果は前年度の結果を再現するものであり、これら非接触の温度測定手法の有効性を確認しました。さらにゼーベック係数は電流によって増大するという、発熱効果とは逆の振る舞いが得られました。この結果は明らかな非熱効果であり、本質的な電場効果を捉えることに成功したと考えています。さらに等温環境で電流による格子定数の変化を捉えることにも成功しており、当初予想していた計画以上の進展があったと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、非平衡量である電流や電場によってモット絶縁体Ca2RuO4の輸送係数および格子定数が変化することを見出しました。とりわけ、非平衡量に依存する格子体積は非平衡状態における熱力学を考えていく上で重要な情報をもたらすものであると考えられます。今後は、電場下での比熱計測の開発を行い、非平衡量を関数として熱力学量を記述できるような実験データの測定を試みます。
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次年度の研究費の使用計画 |
電場下での比熱計測および磁化計測手法の開発および研究成果の発表に使用します。
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