本年度は当初の研究計画である(Bー2)ビスマスにおける定量的物性予測と,追加課題である(Aー3)スピンホール効果,(Bー3)ビスマスにおける"additional peak"構造の解明を行った. (Aー3)前年度は理想ディラック電子において,動的伝導度を用いてスピン偏極電流を得られることを見いだした.これを発展させ,本年度は静的伝導度においてスピン流の可能性を追求した.その結果,ビスマスでは非常に大きなスピンホール流が得られることを初めて見いだした.しかもそのスピンホール効果は,次のようにこれまで知られていない驚くべき性質を持っていることが明らかとなった.(1)キャリア数が少なくなるにつれ増大し,絶縁体領域で最大値をとる.そして,スピンホール絶縁体が実現する.(2)全てバンド間効果からの寄与で,バンド内効果の寄与はゼロ.(3)絶縁体では反磁性電流とスピンホール流の表式が厳密に一致する. (Bー2)前年度は12テスラまでの角度分解ランダウスペクトル測定の結果を解析した.本年度はさらに30テスラまでの測定結果を解析した.12テスラまでの解析で用いた質量テンソルの値を全く変更することなく,30テスラまでの測定をフィットできることが分かった.すなわち,30テスラという強磁場においても,ビスマスの電子状態は1電子状態で記述でき,強磁場中で大きくなると“信じられていた”電子相関の効果が一切見いだせないことを明らかにした.更に,15テスラ以上では伝導体と価電子帯の最低ランダウ準位間の混成効果が顕著になることも明らかにした. (Bー3)ビスマスでは,上記1電子状態で全く理解できない謎の"additional peak"構造が見つかっており,分数量子ホール効果などの可能性が議論されてきた.本研究では,その構造は,双晶からのピーク構造であったことを突き止めた.
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