研究概要 |
前年度までに確立した分子性導体スピンバルブの作製手法を用いて、ディラック電子系α-(BEDT-TTF)_2I_3および導電性高分子PEDOT:PSSに対して非局所測定を行った。α-(BEDT-TTF)_2I_3においては、ディラック電子系は1.5 GPa以上の高圧下で実現するため、プラスチック基板上に分子性導体スピンバルブを作製する手法を開発し、ピストンシリンダセルに入れて加圧した。非局所磁気抵抗効果から、この試料のスピン拡散長および緩和時間がそれぞれ1.1 μm, 3 nsと見積もられ、典型的なディラック電子系であるグラフェンと比較して、短い拡散長、長い緩和時間をもつことがわかった。α-(BEDT-TTF)_2I_3の拡散係数が小さいために拡散長は長くないものの、バルク物質であるために基板による散乱が少なく、長い緩和時間を示したと考えられる。一方、導電性高分子PEDOT:PSSにおいては、α-(BEDT-TTF)_2I_3と同程度の拡散係数、緩和時間が期待されるにもかかわらず、非局所磁気抵抗効果は観測されなかった。これにはスピンをもたないバイポーラロンによる伝導が支配的である、もしくは、有機/電極界面におけるスピン偏極率の損失が分子性導体の場合と比べて大きいなどの理由が考えられる。 以上より、本研究では分子性導体を用いて初めて非局所磁気抵抗効果の測定を実現し、ナノ秒オーダーの長いスピン緩和時間を持つことが明らかになった。
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