研究概要 |
本年度は、極低温度まで磁気秩序が抑制された特異な有機伝導体の研究を行った。この状態は量子スピン液体と呼ばれ、現在精力的に研究されている。量子スピン液体を示す物質はいくつか知られているが、今回、混晶系Et2Me2As1-xSbx[Pd(dmit)2]2に着目して研究を行った。この物質基底状態はx=0において反強磁性、x=1では電荷秩序となる。そしてx=0.5近傍の中間混晶では量子スピン液体状態が実現することが帯磁率と比熱の実験から示され、非常に重要な物質系であることがわかっている。そこでこの混晶系の圧力下物性を調べることで量子スピン液体に関する電子物性の理解を深める目的の研究を行った。特に常圧下の基底状態が反強磁性となる物質についてのみ圧力下超伝導状態が現れており、この混晶系でも成り立つのかに着目して研究が行われた。 まず電荷秩序を示すx=0.95において電気伝度度を測定したところ、電荷秩序転移温度において抵抗の急激な上昇を観測した。そこで転移温度の圧力依存性を調べたところ圧力に対してドーム状のふるまいをしめすことを明らかにした。次にスピン液体を示すx=0.75と0.5の圧力依存性を調べた。するとx=0.75では圧力下で電荷秩序転移を起こすことが明らかとなった。一方x=0.5では電荷秩序は見られず、モット絶縁体→金属転移が観測された。これは電荷秩序と量子スピン液体状態が非常に拮抗していることを示しており、量子スピン液体状態を明らかにするうえで重要な知見となった。次にx=0.1, 0.2, 0.25について調べたところ、xが小さい、すなわち量子スピン液体から離れた物質では良好な超伝導が現れることがわかった。超伝導転移温度は常圧下の反強磁性転移温度との関連が見られ、また残留抵抗との関連が示唆され、量子スピン液体状態の本質がいかなるものかが示される成果が得られた。
|