研究課題/領域番号 |
23740274
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
工藤 一貴 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (40361175)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / 新物質開発 |
研究概要 |
鉄系超伝導体は、2次元Fe2As2層とスペーサー層が交互に積層した層状構造を持つ。より高い転移温度Tcを持つ鉄系超伝導体を開発するには、超伝導を発現するFe2As2層の電子状態を最適化する新しいスペーサー層を開発することが必要である。これまで報告されてきたスペーサー層は、全て、イオン結合性の化学結合により構成されていた。本研究では、共有結合性のスペーサー層PtnAs8 (n = 3, 4)を含む新しい鉄系超伝導体Ca10(Pt4As8)(Fe2-xPtxAs2)5 (x = 0.36) (アルファ相)とCa10(Pt3As8)(Fe2-xPtxAs2)5 (x = 0.16) (ベータ相)を発見した。アルファ相がTc = 38 K、ベータ相がTc = 13 Kの超伝導を示す。共に、三斜晶、空間群P-1の結晶構造を有する。キャリアは電子であり、ドーピングレベルは、アルファ相が最適ドープ、ベータ相が不足ドープである。PtnAs8層の[As2]4-分子、Fe2As2層のAs3-を考慮すると、形式価数Fe2+、Pt2+となるベータ相x = 0を母物質と見なすことができる。この系では、FeサイトへのPt置換とPtnAs8のPt量変化によってキャリアドープされ、超伝導が生じている。 本研究の開始当初、申請者は、Ca, Fe, Pt, Asの4元系で観測されたTc = 38 Kの高温超伝導が、遷移金属プラチナと原子空孔のコドープに起因するという仮説を立て、そのメカニズムを解明するという目的を設定した。しかし、研究を進めたところ、その予想を遥かに超え、新しいスペーサー層を持つ鉄系超伝導体を発見するに至った。今回の発見は、多様なスペーサー層が鉄系超伝導体に入る可能性を示し、鉄系における物質開発の幅を広げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度の計画であるCa, Fe, Pt, Asからなる新超伝導体の構造解析と電子相図の作製が完了し、年度末から既に平成24年度計画をスタートしている。さらに、現在は、発見した超伝導体と同種の構造を持つ新しい化合物の開発へと研究が発展している。これらの理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。 平成23年度の当初計画をまとめると、下記の2つであった。1.良質な単結晶試料を合成し、単結晶X線回折実験を行って構造を調べる。2.超伝導転移温度TcとPt置換量を調べて、電子相図を明らかにする。1については、研究実績の概要に記載した通りである。その成果についてJPSJに論文を発表した結果、注目論文賞の評価を得た。2の電子相図については、先日米国で行われたMRS Spring Meetingで口頭発表した。近々論文にまとめる予定である。平成24年度計画では、新超伝導体の超伝導基礎物性を評価する予定であるが、平成23年度末から一部の実験が既に始まっている。例えば、上部臨界磁場と残留抵抗率の評価を完了しつつある。現在、超伝導基礎物性の評価を行いながら、同種の構造を持つ新超伝導体の開発へと研究を発展させている。
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今後の研究の推進方策 |
1.新超伝導体の超伝導基礎物性の評価 電気抵抗率の温度依存性、残留抵抗率のPt置換量依存性を解析し、Ptが電子系に及ぼす乱れの影響を明らかにする。磁場中の電気抵抗率から上部臨界磁場、コヒーレンス長を評価する。さらに、単結晶試料を、光電子分光、NMRの研究グループへ提供し、フェルミ面ネスティングと超伝導の関係、磁性と超伝導の関係を明らかにする。2.同種の構造を持つ新超伝導体の開発 Pt以外の遷移金属のヒ化物層をスペーサー層として含む新しい超伝導体を探索する。さらに、鉄以外の遷移金属のヒ化物層を伝導層として含む新しい超伝導体を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.試料合成用に、原料試薬、アルミナるつぼ、石英ガラス管を購入する。2.物性測定用に液体ヘリウムを購入する。3.国内旅費を使用し、日本物理学会へ2回、研究会へ1回出席する。4.外国旅費を使用し、米国で行われる国際会議へ1回出席する。5.繰り越した研究費(次年度使用額)を、論文投稿料に充当する。
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