研究課題/領域番号 |
23740275
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鬼丸 孝博 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (50444708)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 磁性 / 熱電物性 |
研究概要 |
近年,カゴ状結晶構造をもつ化合物の多彩な新物性が注目され,カゴ中の磁性イオンの低エネルギー大振幅振動 (ラットリング) に関する研究は磁性とフォノン物性の融合分野を創出しつつある。本研究では,磁性希土類原子がゲストとしてカゴに100%内包されている唯一のクラスレートEu8Ga16Ge30に着目し,磁気モーメントを持つイオンの非中心ラットリングがその磁性にどのような影響を及ぼすのか明らかにする。I型Eu8Ga16Ge30はTC=36 Kの強磁性体であるが,Eu ゲストはTC以下でも非中心サイト間をラットリングしている。また,TCより低温のT*=24 K付近で磁気構造のクロスオーバーが起こり,変調強磁性構造が実現していると考えられる。 そこでEuの振動状態と磁性の相関について調べるため,加圧によりカゴサイズを縮め,ゲストの振動エネルギーを増加させ非中心ラットリングを中心に近づけて,磁化,電気抵抗の測定を行った。広島大学自然科学研究支援開発センター・梅尾 和則 准教授の協力のもと,高圧下 2 GPa までの磁化と10 GPaまでの電気抵抗を測定した。圧力下測定より,TCとT*は加圧ともに上昇することが分かった。また,T*でみられる電気抵抗のピークの高さは,Pc=4 GPaまで徐々に抑えられるが,それ以上ではほとんど変化しない。ラマン散乱実験からはPc近傍でEuの非中心振動が中心振動へと変わっていることが指摘されているので,このPcの変化はEuの振動状態に依存していると思われる。また,キャリアドープした単結晶を作製し,電気抵抗率,磁化,比熱の測定を行った。キャリアが増えるとともにTcでの比熱の跳びは大きくなり,一様強磁性が実現しているように思われる。また,T*での電気抵抗率と磁化の異常も見られなくなった。これらの結果は,変調磁気構造とキャリア密度に相関があることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,広島大学自然科学研究支援開発センター・梅尾 和則 准教授の協力のもと,高圧下 2 GPa までの磁化と10 GPaまでの電気抵抗を測定した。TCとT*は加圧ともに上昇し,T*でみられる電気抵抗のピークの高さはPc=4 GPaまで徐々に抑えられ,それ以上ではほとんど変化しない。Pc近傍でEuの非中心振動が中心振動へと変わっていることが指摘されており,このPcでの変化はEuの振動状態に依存していると思われる。 また,キャリアドープした単結晶の育成とそのマクロ物性測定 キャリアドープした単結晶試料を固体溶融法で作製した。示差熱分析で融点を調べ,原料の仕込み比や温度プログラムを最適化することで,大型の単結晶を得ることができた。試料の評価は,粉末 X 線回折と電子プローブミクロ分析により行い,キャリア密度をホール効果の測定から見積った。ここで作製した単結晶を用いて,電気抵抗率,磁化,比熱の測定を行った。キャリアが増えるとともにTcでの比熱の跳びは大きくなり,一様強磁性が実現しているように思われる。また,T*での電気抵抗率と磁化の異常もほとんど見られなくなった。これらの結果は,変調磁気構造とキャリア密度に相関があることを示唆している。 次年度に行う圧力下中性子実験のために,153Eu同位元素を用いて単結晶試料を育成した。Euは中性子の強い吸収体であるため,153Eu同位元素での試料育成が不可欠である。 これまで試料育成をその主な手法として研究を進めており,ラマン分光やNMR/NQR,μSR,放射光,超音波測定などのグループに良質な試料を供給した。このような多面的な共同研究を通して,ラットリングと磁性の相関という新しい課題に対する情報を共有していく。
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今後の研究の推進方策 |
Eu8Ga16Ge30について圧力下中性子散乱実験を行い,磁気構造の変化を調べる。スピンを持つ中性子と物質中の磁気モーメントの間には磁気双極子間相互作用がはたらくので,回折強度の波数依存性を解析することで磁気構造が求まる。申請者はこれまでに,梅尾 和則 准教授との共同研究で,希土類フラストレート系 YbAgGe における2 GPaまでの中性子回折実験を成功させている。ここで得られたノウハウを本研究にも活用する。また,D. T. Adroja 博士と協力してμSR 実験の共同研究も進めていく。さらに,高強度の中性子ビームが使えるイギリスのISISのビームラインで課題申請を行う予定である。 また,圧力下でのX線磁気円二色性測定を,研究協力者の筒井 智嗣 博士と行う。磁気円二色性とは,磁場を印加した際に現れる双極子遷移における選択則の違いによる右回り円偏光と左回り円偏光の吸収強度の差のことで,元素選択的に磁化を測定することができる。測定のための試料が微量で良 いため高圧力・強磁場下での磁化測定が可能であり,ダイヤモンド・アンビルを用いることで20 GPa程度まで測定可能である。本研究では,硬X線を使って希土類元素のL吸収端 (2p→5d)で測定するため,SPring-8 での課題を研究代表者本人が申請する。 キャリアドープによる磁気構造の変化を,中性子散乱とX線磁気円二色性測定で調べる。Eu間の磁気相互作用は,キャリアドープにより増強されるはずである。磁気構造のキャリア依存性を調べ,変調強磁性構造の安定性をみる。Euは中性子の強い吸収体であるため153Euを使った試料育成を行う。 なお,今後も引き続き,特徴ある手法をもつ測定グループへ良質な試料を提供して,共同研究を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究での試料作製は,数日かけて徐冷するフラックス法ならびに固体溶融法を採用する。示差熱分析で融点を調べ,原料の仕込み比や温度プログラムを最適化するなど,純良な単結晶の作製にはある程度の試行実験が必要である。そのために,試料の原料となる高純度の金属材料を購入する。 中性子散乱実験においてEuは強い吸収体なので, 153Eu同位元素を購入し中性子散乱実験を行うための試料を作製する。153Euは0.1グラムで約15万円と大変高価であるが,本研究で大きなウェイトを占める磁気構造に関する議論のために必要である。また, これまで153Euで作った試料を日本原子力研究開発機構で使用していたが,放射化のため施設外に持ち出せない。今回の圧力下中性子散乱実験は高強度のISISでの実験が不可欠であるので,次年度以降も新たに試料を作製する。また,電気抵抗や磁化,比熱などの物性測定全般において液体ヘリウムや液体窒素を用いるので,これら寒剤を購入する。
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