近年,カゴ状結晶構造をもつ化合物の多彩な新物性が注目され,カゴ中の磁性イオンの低エネルギー大振幅振動(ラットリング)に関する研究は磁性とフォノン物性の融合分野を創出している。本研究では,磁性希土類原子がゲストとしてカゴに100%内包されている唯一のクラスレートであるI型Eu8Ga16Ge30に着目し,磁気モーメントをもつイオンの非中心ラットリングがその磁性にどのような影響を及ぼすのか明らかにすることを目的として研究を進めてきた。I型Eu8Ga16Ge30はTC=36 Kの強磁性体である。われわれはこれまでに,TCより低温のT*=24 K付近で磁気構造のクロスオーバーが起こっており,TC以下で変調強磁性構造が実現していると提案していた。そこで,キャリアドープした系の試料を作製し,電気抵抗率,磁化,比熱の測定を行ったところ,キャリアが増えるとともにTCでの比熱の跳びは大きくなり,またT*の異常も消失することが分かった。キャリアが増えたことにより,変調構造から一様強磁性構造に変化したと考えられる。そこで今回,キャリアの異なる系のX線磁気円二色性(XMCD)測定を行った。その結果,XMCD強度の温度依存性はマクロ磁化とよく一致することが分かった。つまり,Eu8Ga16Ge30の磁気構造としては,測定プローブの時間スケールによらず,同一のものが観測されたと考えられる。これまでの圧力下でのマクロ物性とXMCD測定の結果を合わせて考えると,この系ではラットリングだけでなく,キャリア数が磁気構造と密接に関係していると考えられる。
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