研究課題/領域番号 |
23740276
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
小山 岳秀 兵庫県立大学, 物質理学, 助教 (30397666)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 重い電子系 / 強相関物性 / NMR / 核磁気共鳴 / イッテルビウム化合物 / 強相関電子系 |
研究概要 |
いくつかのYb化合物でCe化合物の10倍以上、また、自由電子の1,000倍以上の非常に大きな電子比熱係数が観測され、その起源が注目を集めている。本研究では大きな電子比熱係数の機構を解明することを目的に一つとして、まず、YbPtSbを対象物質として研究を行っている。そのアプローチとして、4f電子の局在、遍歴などの状態、また、4f電子系化合物の低温物性を支配する伝導電子と4f電子の混成の大きさなど、YbPtSb固有の性質を調べるために、核磁気共鳴(NMR)実験を行った。 得られた結果は(1) ナイトシフト、核スピン-格子緩和率1/T1の温度変化から微視的にYbイオンの4f電子は少なくとも10Kまでは局在状態にあること、また、(2) 4f電子間の相互作用は小さいことがわかった。これはYbPtSbがhalf-Heusler型構造をとるため、伝導電子の密度が少ないことに起因するものと考えられる。 私たちの予備実験で分かっていた、「通常温度変化しない核スピン-スピン緩和率1/T2が30K付近で大きな温度変化を示し、10Kにピークをもつ原因」を調べるため、それ以下の温度領域について磁場依存性なども含めて測定を行った。興味深いことに(3) 10K以下の1/T1の温度変化は10K以上と大きく異なり、1/T1が降温で減少する、さらに(4) 1/T1の大きさが磁場の大きさに大きく影響を受けることを観測した。ただ、現在のところ(3), (4)の結果がどのような電子状態によるものか明らかにはできていない。 YbPtSbは400mKで磁気転移を示すが、その秩序モーメントは通常のYbの4f電子の値の1/10以下であることがmuSR実験より報告されている。しかし、モーメントが小さい原因はわかっていない。NMRで観測した10K以下の特異な状態は秩序モーメントが小さいことと関係していると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準備段階の実験で分かった問題点として121Sb核と195Pt核の共鳴条件が近いことから、1/T1の測定がうまく行えないことがあった。この点に関しては、濃縮した同位体123Sbを購入し(123Sbの共鳴条件は195Ptと大きく異なる)、それを用いたYbPtSbを作製することで、121SbのNMR信号の影響を除外することで解決し、T1を測定することができた。これにより、YbPtSbの動的状態を調べることが可能となった。 本研究の目的の一つは、「Yb化合物でみられる非常に大きな低温電子比熱係数の起源の解明」である。Ce化合物などで観測されている自由電子の数百倍の大きな電子比熱係数は通常、伝導電子と4f電子の混成効果によって重い電子状態が形成されることに起因する。しかし、今回のNMR実験でYbPtSbにおいては混成効果による重い電子状態の形成はほとんどないことを明確にすることができた。つまり、YbPtSbの大きな低温電子比熱係数の起源は重い電子状態の形成のためではない。この物質における新たな知見として、約10Kを境に1/T1の温度変化が高温と大きく異なっており、高温の局在し、相互作用が弱い状態で揺らいでいる4f電子の状態とは別の状態が低温で形成されていることが示唆される結果を得ることができた。 本研究の二つ目の目的である「Yb化合物の小さな磁気モーメントによる磁気秩序」の機構を調べることである。YbPtSbでも400mK以下で0.1muB以下の小さな磁気モーメントによる磁気秩序が報告されている。モーメントがこのように小さい原因はまだ明らかになってはいない。本研究の現段階ではこの問題に対する明確な答えは出すことができていないが、先に述べたように今回観測した10K以下の高温とは異なる電子状態の形成がモーメントを小さくすることと関係していており、その解明が今後の課題と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中のYbPtSbの研究をさらに進めることに加えて、重い電子系物質であるYb2Ni12P7を対象に加えて、実験を行う。 YbPtSbについては10K付近で電子状態が変化することを見出した。しかし、10Kに近い温度領域ではPtのNMR信号の強度が非常に弱くなり、スペクトル、1/T1などの測定が困難であった。そこで、信号強度の強いSb核に測定対象とるす核を換え、核スピン-スピン緩和率1/T2の磁場変化を測定する。これによって期待されるのは、電子状態の変化が磁気的なものか、そうでないか、を明らかにすることである。 Yb2Ni12P7はYbPtSbほどではないが大きな電子比熱係数をもつ物質である。約150Kまでは局在電子系で観測されるCuire-Wiess型の磁化率を示し、50K近傍でCuire-Wiess型の変化からずれ、価数揺動的になっているようにも見える。しかし、20K以下で磁化率は再び増大する。この低温の増大が不純物のためか、本質的なものかを核磁気共鳴(NMR)実験によって明らかにする。また、価数揺動物質であった場合、4f電子が高温の局在状態から低温の遍歴状態(重い電子状態)に連続的に変化する過程を1/T1などで観測できればYb化合物の重い電子状態の形成の理解につながる。Ce化合物ではいくつか報告があるが、Yb化合物で4f電子の重い電子状態への移行過程を観測した例はほとんどないからである。 このような手法により今後、非常に大きな電子比熱係数の起源と一般的な重い電子状態の形成過程の両方を測定し、結果を比較することでYb化合物の低温状態の系統的な理解を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
「温度制御システム整備」温度コントローラー、温度センサー、金属材料などを購入し、測定温度をさらに安定化し測定環境を整える。NMR測定には温度を長時間に一定されることが不可欠である。現有のコントローラーは特定のNMRプローブのみに対応している。測定条件に応じたプローブで温度制御できる環境を整備したい。また、さらに低温を測定するために3He冷凍機を自作する。「寒剤」低温の環境を作り出すためには大量の液体ヘリウム、液体窒素などの寒剤が必要である。大学の低温センターからそれらを購入し低温実験を行う。「国際会議参加費、国内学会旅費」これまでの研究成果を国際会議や国内の学会で発表し、多くの人に公表する。 なお、次年度使用額は、3月に実験の予期せぬトラブルのため、消耗品購入品目の再考を検討していることによる。
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